公正採用選考とは、企業などが労働者を採用する際に、応募者本人の適性や能力に基づいて判断し、本人に責任のない事項や思想・信条に関わる事項を採否の材料にしないという考え方です。同和問題・部落差別との関係では、本籍、出生地、家族、生活環境などを調べることが、身元調査や就職差別につながるおそれがあるため、重要な用語です。
1.公正採用選考の意味
公正採用選考は、採用する側が応募者を公平に扱い、職務に必要な能力や適性によって採否を判断するための考え方です。採用選考では、応募者がその仕事を遂行できるか、必要な知識や技能を身につけられるか、職場で求められる役割に対応できるかが判断の中心になります。
反対に、本籍、出生地、家族の職業、家庭環境、住宅状況、宗教、支持政党、生活信条などは、本人の職務遂行能力とは直接関係しません。これらを応募書類に書かせたり、面接で質問したり、作文の題材にしたりすると、応募者の適性や能力とは別の理由で選別することにつながります。
同和問題・部落差別の文脈では、本籍や出生地を確認する行為が、被差別部落の出身であるかどうかを調べる身元調査と結び付いてきました。そのため、公正採用選考は、単なる採用マナーではなく、就職差別を防ぐための実務上の原則として理解する必要があります。
2.制度・法律との関係
公正採用選考は、職業安定行政や労働行政の中で、企業に対して繰り返し周知されてきた考え方です。厚生労働省や都道府県労働局、ハローワークは、事業主に対し、応募者の基本的人権を尊重し、適性・能力に基づいた採用選考を行うよう求めています。
具体的には、本籍・出生地に関すること、家族に関すること、住宅状況、生活環境・家庭環境などの把握は、「本人に責任のない事項」の把握として問題になります。宗教、支持政党、人生観、生活信条、思想、労働組合への加入状況、購読新聞・雑誌・愛読書などは、「本来自由であるべき事項」に関わるものです。
採用選考の方法としても、身元調査の実施、本人の適性・能力に関係ない事項を含んだ応募書類の使用、合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断などは、就職差別につながるおそれがあるものとして扱われます。
部落差別解消推進法は、現在もなお部落差別が存在することを前提に、相談体制の充実や教育・啓発を国と地方公共団体の責務として定めています。公正採用選考は同法に直接書かれた制度ではありませんが、部落差別を就職の場面で再生産しないための重要な実務といえます。
3.人権上の論点
公正採用選考の人権上の論点は、就職の機会が、本人の努力や能力ではなく、出身、家族、居住地域、思想・信条などによって左右されてはならないという点にあります。就職は生活の基盤をつくる行為であり、そこで差別が起きれば、収入、社会参加、将来設計に大きな影響が及びます。
部落差別では、応募者の本籍や出生地、家族関係を調べることが、特定地域の出身者を排除するために使われる危険があります。採用担当者が差別的な意図を明確に持っていなくても、不要な情報を集めれば、偏見や先入観が判断に入り込む余地が生まれます。
公正採用選考は、応募者に不適切な質問をしないという消極的な対応だけでは足りません。企業は、募集要項、応募書類、面接項目、採用基準、健康診断の実施時期や内容を点検し、職務に必要な情報だけで判断する仕組みを整える必要があります。
同和問題・部落差別との関係で公正採用選考を説明する場合は、「差別的な質問を避ける」という表面的な理解にとどめず、なぜ本籍や家族、生活環境を尋ねることが就職差別につながるのかを伝えることが大切です。採用の入口で出身や家族関係を持ち込まないことは、企業が部落差別を生まないための基本的な対応です。