本人通知制度とは、戸籍謄本、住民票の写しなどが本人の代理人や第三者に交付された場合に、その事実を本人へ通知する制度です。部落差別との関係では、戸籍や住民票の不正取得が身元調査に使われ、結婚差別や就職差別につながるおそれがあるため、差別防止と個人情報保護の両面から重要な制度とされています。
1.本人通知制度の意味
本人通知制度は、市区町村が戸籍謄本、戸籍抄本、住民票の写しなどを本人以外に交付した場合、あらかじめ登録した本人に対して、交付の事実を知らせる仕組みです。多くの自治体では「事前登録型本人通知制度」として運用されています。
この制度は、第三者から請求があった時点で本人に許可を求める制度ではありません。法律上、正当な理由がある第三者請求や代理人請求については、市区町村が証明書を交付する場合があります。本人通知制度は、交付そのものを事前に止める制度ではなく、交付後に本人へ知らせることで、不正取得の早期発見や抑止につなげる制度です。
戸籍や住民票には、本籍、住所、氏名、生年月日、家族関係など、個人の生活に深く関わる情報が含まれます。これらの情報が不正に取得されれば、身元調査、なりすまし、詐欺、嫌がらせなどに悪用される危険があります。部落差別の文脈では、本籍や住所を手がかりに出身地を調べ、結婚や就職の場面で差別的な判断に使うことが問題となってきました。
2.制度・法律との関係
本人通知制度は、国の一律の法律で全国すべての市区町村に同じ内容で義務付けられている制度ではなく、多くの場合、自治体が要綱などに基づいて実施しています。そのため、登録方法、通知の対象となる証明書、通知される内容、登録期間などは自治体によって異なります。
戸籍や住民票の交付制度では、本人や同一世帯の人だけでなく、一定の要件を満たす第三者や職務上請求を行う専門職が証明書を請求できる場合があります。弁護士、司法書士、行政書士などによる職務上請求は、相続、訴訟、債権管理など正当な目的で必要となることがあります。一方で、過去には職務上請求書や委任状を悪用した不正取得事件も発生しており、制度の適正な運用が課題となってきました。
部落差別解消推進法は、現在もなお部落差別が存在し、情報化の進展に伴って部落差別に関する状況の変化が生じていることを踏まえた法律です。本人通知制度は、同法に直接規定された制度ではありませんが、戸籍や住民票の不正取得を防ぎ、身元調査による差別を抑止する実務上の仕組みとして、部落差別の解消に関わります。
自治体によっては、本人通知制度を同和問題・部落差別に関する啓発施策と結び付けて周知しています。これは、戸籍や住民票の問題を単なる行政手続ではなく、個人情報の保護、結婚差別の防止、就職差別の防止に関わる課題として捉えているためです。
3.人権上の論点
本人通知制度の人権上の論点は、本人の知らないところで個人情報が取得され、その情報が差別や不利益な扱いに使われる危険をどう抑えるかにあります。戸籍や住民票の情報は、本人の努力や能力とは関係のない出身、家族関係、居住歴をたどる手がかりになることがあります。
部落差別では、特定地域の出身であるかどうかを調べる身元調査が、結婚差別や就職差別と結び付いてきました。本人通知制度は、こうした調査を完全に防ぐ制度ではありません。しかし、証明書が第三者に交付された事実を本人が知ることにより、不正取得の疑いを確認し、必要に応じて自治体への開示請求や相談につなげるきっかけになります。
制度の限界もあります。事前登録をしていない人には通知されない場合が多く、通知を受けても、誰がどのような目的で取得したのかが直ちにすべて分かるとは限りません。制度を実効性のあるものにするには、自治体による周知、登録しやすい手続、相談窓口との連携が必要です。
本人通知制度は、戸籍や住民票をめぐる手続の透明性を高める仕組みです。同和問題・部落差別との関係では、出身地や家族関係を理由に人を選別する身元調査を許さないという姿勢を、行政実務の中で具体化する制度といえます。