誹謗中傷とは、根拠のない悪口や攻撃的な言葉によって、他人の名誉、人格、生活の平穏などを傷つける行為を指す一般的な表現です。法律上、「誹謗中傷」という一つの犯罪名があるわけではありませんが、投稿や発言の内容によっては、名誉毀損、侮辱、信用毀損、業務妨害、プライバシー侵害などの問題になり得ます。SNSや掲示板、動画投稿サイト、口コミサイトなどで拡散した場合、被害が短時間で広がり、削除後もスクリーンショットや転載によって影響が残ることがあります。
1.誹謗中傷の意味
誹謗中傷は、日常語としては「相手を傷つける悪口」「根拠のない非難」「人格を攻撃する投稿」などを広く含んで使われます。インターネット上では、匿名の書き込み、引用投稿、コメント欄、レビュー、まとめサイトなどを通じて行われることが多く、対象は個人、企業、学校、団体、公職者、著名人、一般の利用者などさまざまです。
ただし、厳しい批判や意見表明のすべてが誹謗中傷になるわけではありません。政策、商品、サービス、組織運営、社会的発言などへの批判は、表現の自由や消費者の情報共有と関わります。問題となるのは、事実に反する内容を広める、人格を侮辱する、私生活上の情報をさらす、差別的な属性を攻撃する、執拗に個人を標的にする、といった場合です。
そのため、誹謗中傷を考える際には、「不快な表現かどうか」だけでなく、誰に向けられた表現か、どのような事実を示しているか、公共性や公益性があるか、表現の態様が相当か、被害者の生活にどのような影響を及ぼしているかを分けて見る必要があります。
2.制度・法律との関係
誹謗中傷に関係する主な法律として、刑法、民法、情報流通プラットフォーム対処法、個人情報保護法などがあります。
刑法上は、具体的な事実を示して人の社会的評価を低下させた場合には名誉毀損罪、事実を示さずに人を侮辱した場合には侮辱罪が問題になることがあります。企業や店舗などに関する虚偽の情報を流し、信用を害したり業務を妨げたりした場合には、信用毀損罪や業務妨害罪が問題になる場合もあります。
民事上は、名誉権、プライバシー権、肖像権などの侵害として、損害賠償請求や投稿削除請求の対象となることがあります。SNS上の投稿であっても、被害者の氏名、顔写真、勤務先、学校名、住所、家族関係などが示され、個人の特定や生活への影響が生じる場合には、深刻な権利侵害となり得ます。
情報流通プラットフォーム対処法は、インターネット上の権利侵害情報について、発信者情報開示や削除対応、プラットフォーム事業者の手続の透明化などに関わる法律です。被害者が投稿者を特定したい場合や、投稿の削除を求めたい場合に関係します。ただし、削除の可否や違法性の判断は、投稿の内容や文脈によって異なります。
相談先としては、法務省の人権擁護機関、インターネット人権相談受付窓口、みんなの人権110番、違法・有害情報相談センター、弁護士、警察などがあります。削除を求めたいのか、投稿者を特定したいのか、刑事事件として相談したいのか、損害賠償を求めたいのかによって、利用する窓口や手続は変わります。
3.人権上の論点
誹謗中傷は、単なる「言い争い」では済まない場合があります。特定の人を名指しして人格を攻撃する投稿、性的指向や性自認、障害、出身地、国籍、民族、病歴、家庭環境などをあげつらう投稿は、個人の尊厳や平穏な生活を損なう行為です。被害者が学校や職場に行きにくくなる、家族に影響が及ぶ、検索結果に投稿が残り続けるといった二次被害も起こり得ます。
差別的な誹謗中傷では、個人攻撃と集団への偏見が結びつくことがあります。たとえば、外国人、性的マイノリティ、障害のある人、被差別部落出身者、犯罪被害者、生活困窮者などに対する投稿では、個別の発言が同じ属性を持つ人々への萎縮や排除につながる場合があります。この点で、誹謗中傷はプライバシーや名誉の問題にとどまらず、差別や社会参加の問題とも接続します。
他方で、誹謗中傷対策は、表現の自由との関係を避けて通れません。行政、企業、学校、政治家、公的立場にある人への批判まで一律に「誹謗中傷」として扱えば、必要な告発や社会的議論が狭められるおそれがあります。被害者救済と表現の自由を両立させるためには、人格攻撃、差別表現、私生活情報の暴露と、公共的な批判や意見表明を区別することが欠かせません。
インターネット上の誹謗中傷への対応では、投稿の保存、削除申請、相談窓口の利用、発信者情報開示、警察や弁護士への相談など、段階に応じた対応が必要になります。人権の視点からは、被害者が孤立せず、必要な救済に早くつながれることと、プラットフォーム事業者の削除基準や対応手続が利用者に分かる形で示されることが課題になります。