犯罪被害者等基本法とは、犯罪被害者等の権利利益の保護を図るため、犯罪被害者等施策の基本理念、国・地方公共団体・国民の責務、基本的施策などを定めた法律です。2004年12月に成立し、2005年4月に施行されました。犯罪被害者等には、犯罪等により害を被った本人だけでなく、その家族や遺族も含まれます。被害の回復、経済的支援、保健医療・福祉、居住、雇用、刑事手続への関与などを考えるうえで基礎となる法律です。
1.犯罪被害者等基本法の意味
犯罪被害者等基本法は、犯罪被害者等のための施策を総合的かつ計画的に進めるための基本法です。犯罪被害者等が、犯罪などによって受けた被害を回復し、または軽減し、再び平穏な生活を営むことができるようにすることを目的としています。
同法でいう「犯罪被害者等」とは、犯罪等により害を被った人と、その家族または遺族を指します。犯罪被害を受けた本人だけでなく、死亡事件の遺族、重い被害を受けた人の家族、被害後の生活を支える家族なども、施策の対象に含まれます。
犯罪被害は、身体的な傷害や生命の侵害にとどまりません。精神的被害、経済的負担、住まいの問題、仕事への影響、裁判や捜査への対応、周囲の無理解や二次的被害など、生活全体に及ぶことがあります。犯罪被害者等基本法は、こうした被害の広がりを踏まえ、国や地方公共団体が支援を進めるための基盤となる法律です。
2.制度・法律との関係
犯罪被害者等基本法は、犯罪被害者等施策に関する基本理念を定めています。犯罪被害者等は、個人の尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有すること、被害の状況や原因、生活への影響などに応じた適切な支援を受けられること、必要な支援が途切れることなく提供されることなどが、基本理念として示されています。
同法は、国と地方公共団体の責務も定めています。国は、犯罪被害者等施策を総合的に策定し、実施する責務を負います。地方公共団体は、地域の状況に応じて、犯罪被害者等のための施策を策定し、実施する責務を負います。被害者支援は、警察や司法機関だけでなく、自治体、福祉、医療、教育、雇用、住宅などの分野とも関係します。
犯罪被害者等基本法に基づき、政府は犯罪被害者等基本計画を定めます。基本計画は、損害回復・経済的支援、精神的・身体的被害の回復、刑事手続への関与、支援体制の整備、国民理解の促進など、犯罪被害者等施策の具体的な方向を示すものです。現在は、第5次犯罪被害者等基本計画が定められています。
関連する制度として、犯罪被害給付制度、被害者参加制度、損害賠償命令制度、地方公共団体の犯罪被害者等支援条例、総合的対応窓口などがあります。犯罪被害者等基本法は、これらの個別制度を理解するための上位概念となる法律です。
3.人権上の論点
犯罪被害者等基本法をめぐる人権上の論点は、犯罪被害者やその家族・遺族を、刑事事件の証拠や参考人としてだけでなく、尊厳と生活を持つ権利主体として扱うことにあります。犯罪被害を受けた後、被害者や家族は、心身の傷、経済的負担、生活環境の変化、周囲の無理解、報道やインターネット上の中傷などに直面することがあります。
特に重要なのが、二次的被害の防止です。二次的被害とは、犯罪そのものによる被害の後に、周囲の言動、捜査・裁判の過程、報道、SNS上の拡散などによって、被害者や家族がさらに傷つけられることをいいます。被害者の落ち度を探すような発言、プライバシーを侵害する情報拡散、遺族への過度な取材などは、被害回復を妨げる要因になります。
犯罪被害者等の支援では、加害者の処罰だけでは十分ではありません。医療、カウンセリング、生活費、住居、仕事、学校、子どものケア、裁判への付き添いなど、被害後の生活を支える支援が必要になる場合があります。犯罪被害者等基本法は、こうした支援を「特別な配慮」ではなく、権利利益の保護に関わる施策として位置付けています。
犯罪被害者等基本法は、刑事司法と人権保障をつなぐ法律です。犯罪被害者本人、家族、遺族が再び平穏な生活を営むためには、警察、検察、裁判所、地方公共団体、医療機関、福祉機関、民間支援団体が、被害直後から中長期の生活再建まで支援を途切れさせないことが重要になります。