デジタル性暴力とは、スマートフォン、SNS、動画投稿サイト、メッセージアプリ、オンラインストレージなどのデジタル技術を使って行われる性暴力や性的な権利侵害を指す言葉です。盗撮、性的画像の無断共有、リベンジポルノ、性的な画像を送るよう求める行為、性的な画像を使った脅迫、生成AIによる性的画像の作成・拡散などが含まれます。身体に直接触れる暴力だけでなく、画像、動画、情報の拡散によって、被害者の尊厳、プライバシー、生活の平穏を深く傷つける点に特徴があります。
1.デジタル性暴力の意味
デジタル性暴力は、性に関する本人の同意を無視し、画像や情報を取得、保存、共有、拡散する行為を広く含みます。典型的には、盗撮した画像を保存する、交際中に送られた私的な画像を別れた後に公開する、性的画像をばらまくと脅す、裸の画像を要求する、SNS上で性的な嫌がらせを繰り返す、といった行為です。
被害は、画像や動画が一度拡散すると完全な回収が難しい点で深刻です。投稿が削除されても、別のアカウントへの転載、スクリーンショット、保存済みデータ、まとめサイトへの転載などによって、被害が長く残ることがあります。学校、職場、家庭、地域での生活に影響が及び、被害者が外出、就学、就労、人間関係を避けるようになる場合もあります。
この用語で重要なのは、被害を「不用意に画像を送った人の問題」として扱わないことです。本人の同意なく性的な画像を撮影、提供、公表、拡散する行為が問題の中心であり、被害者の落ち度を問う説明は、相談や救済へのアクセスを妨げるおそれがあります。
2.制度・法律との関係
デジタル性暴力に関係する法律は一つではありません。行為の内容によって、性的姿態撮影等処罰法、私事性的画像記録提供等被害防止法、刑法、児童買春・児童ポルノ禁止法、ストーカー規制法、情報流通プラットフォーム対処法、民法などが関係します。
性的姿態撮影等処罰法は、意思に反して性的な姿を撮影する行為や、その画像・動画を提供する行為などを処罰する法律です。盗撮や、同意のない性的画像の記録・提供に関わる制度として重要です。
私事性的画像記録提供等被害防止法は、いわゆるリベンジポルノ防止法とも呼ばれます。私的な性的画像が本人の意思に反して提供・公表されることによる被害を防ぐための法律です。交際相手や元交際相手による画像の拡散だけでなく、第三者への提供やインターネット上での公表も問題になります。
被害画像がインターネット上に掲載された場合には、情報流通プラットフォーム対処法も関係します。被害者は、サイトやSNSの運営者に削除を求めたり、一定の要件のもとで発信者情報の開示を求めたりすることがあります。削除、証拠保存、警察への相談、弁護士への相談は、順序を誤ると対応が難しくなる場合があるため、早い段階で専門窓口につながることが大切です。
相談先としては、性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター、警察、法務省の人権相談、違法・有害情報相談センター、弁護士などがあります。未成年が関わる場合には、学校、児童相談所、保護者、支援機関との連携も必要になります。
3.人権上の論点
デジタル性暴力は、性的自己決定、プライバシー、名誉、身体の安全、生活の平穏に関わる人権問題です。画像や動画を通じた被害であっても、被害者の恐怖や屈辱、社会生活への影響は現実のものです。オンライン上の被害だから軽い、画像だけだから直接の暴力ではない、という見方は実態に合いません。
特に問題となるのは、被害者が責められやすい構造です。「なぜ撮らせたのか」「なぜ送ったのか」といった反応は、加害行為の責任をあいまいにし、被害者の相談をためらわせます。性的な画像や情報について、誰に見せるか、どこまで共有するか、後から撤回できるかは、本人の尊厳に関わる問題です。
生成AIや画像加工技術の普及により、実際には撮影されていない性的画像を作成し、実在の人物のように拡散する被害も問題になっています。これは、本人の身体や人格を無断で利用する行為であり、名誉やプライバシーだけでなく、人格的自律への侵害として考える必要があります。
デジタル性暴力への対応では、被害画像の削除だけでなく、被害者の心理的支援、学校や職場での二次被害防止、捜査・法的手続への同行支援、再拡散防止が必要になります。人権の視点からは、被害者を孤立させず、早期に相談と救済へつなぐ仕組みを整えることが中心的な課題となります。