カスタマーハラスメントとは、顧客や取引先などからの著しい迷惑行為によって、働く人の就業環境が害されることを指す言葉です。人権ニュースでは、制度、判例、行政施策、地域の啓発活動などを理解するうえで重要な用語として扱います。
1.カスタマーハラスメントの意味
カスタマーハラスメントは、顧客、利用者、取引先、施設の来訪者などからの不当または過剰な要求、暴言、威圧、脅迫、長時間の拘束、土下座の強要、SNSへの投稿をほのめかす行為、無断撮影、個人情報のさらし上げなどにより、労働者の就業環境が害される問題をいいます。
すべてのクレームがカスタマーハラスメントに当たるわけではありません。商品やサービスに問題があり、利用者が改善や説明を求める正当な苦情は、事業者が受け止めるべき意見です。問題になるのは、要求内容に妥当性がない場合や、要求を実現するための手段・態様が社会通念上相当な範囲を超える場合です。
たとえば、人格を否定する暴言を繰り返す、長時間にわたり従業員を拘束する、謝罪として土下座を強要する、従業員の氏名や顔写真をインターネット上に投稿すると脅す、性的指向やジェンダーアイデンティティに関する侮辱的な言動を行う、といった行為は、カスタマーハラスメントとして問題になります。
2.制度・法律との関係
カスタマーハラスメントは、これまで企業の自主的対応や労働安全衛生、民法上の安全配慮義務、刑法、民事上の損害賠償、迷惑行為への対応などと関連して扱われてきました。従業員を守る体制を取らず、被害を放置した場合、事業者が職場環境配慮義務や安全配慮義務を問われることがあります。
2025年6月の法改正により、2026年10月1日から、事業主にはカスタマーハラスメントを防止するため、雇用管理上必要な措置を講じることが義務づけられます。相談窓口の整備、対応方針の明確化、従業員への周知、被害を受けた労働者への配慮、再発防止、顧客対応のルールづくりなどが実務上の課題になります。
地方自治体でも、カスタマーハラスメント対策は進んでいます。東京都では、東京都カスタマー・ハラスメント防止条例が2025年4月1日に施行されました。同条例は、東京都、顧客等、就業者、事業者の責務を明らかにし、カスタマーハラスメントの防止に関する基本的事項を定めています。
カスタマーハラスメントは、労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法、労働契約法、労働安全衛生法、個人情報保護法、刑法、民法、消費者対応、自治体窓口業務、医療・福祉・教育現場の安全確保とも関係します。従業員保護と正当な利用者対応を両立させる制度設計が求められます。
3.人権上の論点
カスタマーハラスメントの人権上の論点は、働く人が顧客対応の場で人格を否定されたり、恐怖を与えられたり、個人情報をさらされたりすることが、尊厳、安全、健康に関わる問題である点にあります。接客、窓口、医療、福祉、交通、教育、行政サービスなど、人と接する仕事では、顧客や利用者からの言動が労働者の心身に大きな負担を与えることがあります。
特に、名札やレシートに表示された氏名、顔写真、勤務先、SNSアカウントなどが特定され、インターネット上で拡散される場合、被害は職場内にとどまりません。労働者本人だけでなく、家族や生活圏にまで影響が及ぶおそれがあります。性的指向、ジェンダーアイデンティティ、障害、国籍、年齢、容姿などに関する侮辱が含まれる場合には、ハラスメントと差別が重なる問題にもなります。
一方で、カスタマーハラスメント対策を理由に、正当な苦情や合理的な要望まで排除してはなりません。障害のある人の合理的配慮の申し出、外国人住民の行政手続に関する説明要求、医療や福祉サービスへの不安の表明などは、単なる迷惑行為として処理すべきではありません。事業者や行政機関には、正当な意見・苦情と、社会通念上相当な範囲を超える言動を分けて判断する姿勢が必要です。
カスタマーハラスメントを理解する際には、顧客対応の問題としてだけでなく、働く人の人権、職場の安全、個人情報保護、差別防止、利用者の権利との調整を含む問題として捉える必要があります。企業、自治体、医療機関、福祉施設、学校などでは、現場任せにせず、組織として対応基準、相談体制、記録方法、警察や専門機関との連携を整えることが重要になります。