体罰とは、子どもや児童生徒に対して、教育やしつけの名目で、身体に苦痛を与えたり、身体を傷つけたりする行為をいいます。学校では、教員による体罰は禁止されています。家庭でも、親権者などがしつけに際して体罰を加えることは認められていません。体罰は、子どもの尊厳、安全、心身の発達を損なう人権課題です。
1.体罰の意味
体罰は、殴る、蹴る、叩く、物を投げつける、長時間立たせる、正座を強いる、食事やトイレを不当に制限するなど、子どもの身体に苦痛を与える行為を指します。身体にけがが残る場合だけでなく、肉体的苦痛を与える懲戒や指導も体罰に当たる場合があります。
学校では、授業、部活動、生徒指導、生活指導などの場面で体罰が問題になります。「指導のため」「規律を守らせるため」「本人の成長のため」と説明されることがありますが、子どもの身体や心を傷つける方法は、教育的な指導とは区別されます。体罰は、子どもに恐怖を与え、教師や学校への信頼を損ない、暴力による解決を学ばせる危険があります。
不適切な指導は、体罰と重なる場合があります。暴力を伴わなくても、人格を否定する言葉、長時間の叱責、威圧的な指導、特定の子どもを見せしめにする行為、過度な練習や罰を課す行為は、子どもの心身に深刻な影響を与えることがあります。すべてが直ちに体罰と同じ意味になるわけではありませんが、子どもの尊厳を損なう指導は、教育上も人権上も問題になります。
家庭においても、「しつけ」と体罰は区別されます。しつけは、子どもが社会の中で自律して生活できるように、必要なことを伝え、支える行為です。これに対し、体罰は、痛みや恐怖によって子どもを従わせる行為です。保護者が子育てに悩むことはありますが、暴力や威圧を用いることは、子どもの権利を傷つける対応になります。
2.制度・法律との関係
学校での体罰は、学校教育法第11条で禁止されています。同条は、校長や教員が児童生徒に懲戒を加えることはできるとしつつ、体罰を加えることはできないと定めています。つまり、学校には一定の教育的な指導や懲戒は認められますが、身体に対する侵害や肉体的苦痛を伴う方法は認められません。
文部科学省は、懲戒と体罰を区別しています。放課後に教室に残す、学習課題や清掃活動を課す、授業中に起立させるといった行為は、通常は懲戒の範囲内と判断され得ます。ただし、トイレに行かせない、長時間にわたって別室に留め置く、苦痛を訴えているのに正座を続けさせるなど、肉体的苦痛を伴う場合は体罰として問題になります。
家庭での体罰については、児童虐待防止法により、親権者は児童のしつけに際して体罰を加えてはならないとされています。2020年4月には、親権者等による体罰禁止が法定化されました。さらに、民法では親権者の懲戒権に関する規定が見直され、子の人格を尊重する監護・教育の考え方が明確にされています。
体罰が深刻な場合には、児童虐待、暴行、傷害、強要などとして、児童福祉法、児童虐待防止法、刑法上の問題になることもあります。学校で起きた場合には、教育委員会や学校設置者による調査、教職員への処分、再発防止策、被害を受けた子どもへの支援が課題になります。
3.人権上の論点
体罰の人権上の論点は、子どもが大人の指導やしつけの対象である前に、一人の人格を持つ権利主体である点にあります。子どもは発達の途中にあり、大人の保護や教育を必要とします。しかし、そのことは、大人が子どもの身体や心を傷つけてよい理由にはなりません。
体罰は、短期的には子どもを従わせるように見えることがあります。しかし、痛みや恐怖による支配は、子どもの納得や理解を育てるものではありません。むしろ、失敗を隠す、相談しなくなる、大人を恐れる、自尊感情を失う、他者に暴力を向けるといった影響につながるおそれがあります。
学校での体罰は、学ぶ権利にも関わります。教師や部活動指導者から暴力や威圧を受ける環境では、子どもは安心して学び、活動することができません。特定の子どもだけでなく、周囲で見ている子どもにも恐怖や沈黙を生みます。学校が体罰を見逃せば、暴力を容認する空気が広がり、いじめやハラスメントを訴えにくい環境にもつながります。
家庭での体罰についても、保護者だけを責めれば足りるわけではありません。孤立した子育て、貧困、長時間労働、相談先の不足、保護者自身の被虐待経験などが重なる場合があります。体罰をなくすには、子どもを守る対応とあわせて、保護者が追い詰められる前に相談できる支援、学校や地域での早期発見、体罰によらない関わり方の普及が必要になります。