部落地名総鑑とは、被差別部落とされる地域の地名、所在地などを一覧化した差別図書・資料の総称です。1970年代に企業などが購入していたことが明らかになり、採用や結婚における身元調査、就職差別、プライバシー侵害と結び付く重大な人権問題として扱われてきました。
1.部落地名総鑑の意味
部落地名総鑑は、被差別部落とされる地域の名称や所在地などを一覧化した資料を指します。こうした資料は、同和問題を学ぶための教材ではなく、出身地を調べ、結婚や就職などの場面で特定の人を排除する目的で使われる危険があるため、差別を助長するものとして問題視されてきました。
部落差別は、本人の能力や人格とは関係のない出身や地域への偏見によって起きます。部落地名総鑑の問題は、その偏見を実際の選別行為につなげる道具として、地名情報が使われた点にあります。
この用語を理解する際には、具体的な地域名を知ることが目的ではありません。むしろ、地域名や住所情報が差別に悪用される危険を理解し、地名情報を不用意に公開・共有しないことが中心的な課題です。
2.制度・法律との関係
部落地名総鑑事件は、採用選考と人権の関係を考える上で大きな契機となりました。企業が応募者の本籍や出身地を調べ、被差別部落の出身であるかどうかを採用判断に用いることは、公正な採用選考に反します。採用では、応募者本人の能力、適性、職務遂行に関わる事項によって判断する必要があります。
部落差別解消推進法は、現在もなお部落差別が存在し、情報化の進展に伴って状況の変化が生じていることを踏まえた法律です。部落地名総鑑の問題は、紙の資料にとどまらず、インターネット上での地名情報の掲載、転載、検索可能化という形でも現れています。
個人情報保護やプライバシーの問題とも関係します。地域名だけで直ちに個人が特定されるとは限りませんが、住所、家族関係、戸籍情報、学校名、勤務先などと結び付けば、特定の個人や家族への差別につながるおそれがあります。
3.人権上の論点
部落地名総鑑の人権上の論点は、地名情報が差別のための検索資料として使われる点にあります。人は、自分の出生地、家族の出身地、居住地域を理由に、結婚や就職、地域生活から排除されてはなりません。地名総鑑は、その排除を可能にする情報基盤として機能したため、重大な問題とされました。
もう一つの論点は、過去の事件として終わらないことです。インターネット上では、情報が複製され、保存され、検索され続けます。紙の資料であれば回収や廃棄が可能でも、ネット上に出た地名情報は拡散しやすく、削除後も再掲載されることがあります。
部落地名総鑑を説明する際には、歴史的事実を伝えることと、差別情報を再拡散しないことの両立が必要です。教育、報道、研修でこの問題を扱う場合も、具体的な地域の特定ではなく、なぜ地名情報の収集・共有が差別につながるのかを説明することが重要です。