ADRとは、裁判によらず、公正中立な第三者が関与して民事上の紛争の解決を図る裁判外紛争解決手続を指す言葉です。人権ニュースでは、制度、判例、行政施策、地域の啓発活動などを理解するうえで重要な用語として扱います。
1.ADRの意味
ADRは、Alternative Dispute Resolutionの略で、日本語では「裁判外紛争解決手続」と訳されます。裁判所で訴訟を行うのではなく、当事者同士の話合いを基本に、公正中立な第三者が関与して紛争の解決を支援する仕組みです。
ADRには、調停、あっせん、仲裁などがあります。調停やあっせんでは、第三者が当事者の間に入り、話合いや合意形成を支援します。仲裁では、当事者の合意に基づき、仲裁人が判断を示し、当事者がその判断に従う仕組みが採られます。
ADRの特徴は、裁判に比べて柔軟な解決を図りやすい点にあります。紛争の内容、当事者の関係、解決までの時間、費用、非公開性、専門性などを踏まえ、裁判以外の選択肢として利用されます。ただし、すべての紛争に適しているわけではなく、相手方が手続に応じるか、合意が成立するか、緊急性や権利侵害の深刻さがどの程度かによって、適切な手段は変わります。
2.制度・法律との関係
ADRと関係が深い法律が、裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律です。一般にADR法と呼ばれることがあります。同法は、裁判外紛争解決手続の利用を促進し、民事上の紛争について当事者が適切な方法を選択できるようにすることを目的としています。
法務大臣の認証を受けた民間ADR事業者による手続は、「かいけつサポート」として案内されています。認証ADRでは、事業者の専門性や手続運営の適正性などについて一定の基準が設けられています。医療、労働、金融、消費者問題、交通事故、家事・近隣問題、専門職団体による紛争解決など、分野ごとに利用されることがあります。
ADRは、裁判、調停、行政相談、人権相談、労働局の紛争解決援助、消費生活センター、第三者委員会などと混同されることがあります。裁判は裁判所が法的判断を示す手続であり、人権相談は法務省の人権擁護機関などが相談や調査救済につなげる仕組みです。ADRは、主に民事上の紛争について、第三者の関与のもとで当事者間の解決を図る手続として整理されます。
人権に関わる事案でも、雇用、学校、福祉、医療、消費者取引、近隣関係などでは、ADRが選択肢になる場合があります。ただし、暴力、虐待、DV、深刻なハラスメント、犯罪被害、強い支配関係がある事案では、単なる話合いによる解決が適切でない場合もあります。その場合は、警察、児童相談所、配偶者暴力相談支援センター、労働局、弁護士、裁判所などにつなぐ必要があります。
3.人権上の論点
ADRの人権上の論点は、裁判だけでは解決しにくい生活上の紛争について、当事者が利用しやすい解決手段を持てる点にあります。裁判は重要な権利救済の制度ですが、時間、費用、心理的負担、公開性、証拠の準備などの面で、すべての人が容易に利用できるとは限りません。
ADRは、当事者の話合いを通じて、謝罪、再発防止、契約内容の見直し、環境改善、関係調整など、裁判の判決だけでは実現しにくい解決を目指せる場合があります。医療、福祉、教育、職場、地域生活の紛争では、今後も関係が続くことを前提にした調整が必要になることがあります。
一方で、ADRには注意点もあります。対等な話合いができない力関係がある場合、被害者が加害者と向き合うこと自体が負担になる場合、合意を急がせることで権利救済が不十分になる場合があります。人権侵害が疑われる事案では、単に「話し合えばよい」と処理するのではなく、被害者の安全、自由意思、情報提供、支援者の同席、法的助言の機会を確保する必要があります。
ADRを理解する際には、裁判の代わりになる便利な制度としてだけでなく、当事者の権利を守りながら紛争解決の選択肢を広げる仕組みとして捉える必要があります。人権相談、第三者委員会、行政相談、司法手続との違いを整理し、事案の性質に応じて適切な手続を選ぶことが重要になります。