1.奈良県が11月21日、「加害者はなぜ、自分の暴力に気づけないの?」をテーマに女性に対する暴力防止セミナーを開催する。
2.加害者の心理を理解することは、暴力を免責することではなく、正当化の仕組みを把握して再被害を防ぐための手段となる。
3.国もDV加害者プログラムを「被害者支援の一環」として進めており、加害者への働きかけより被害者の安全確保を優先する原則が欠かせない。

「自分の暴力に気づけない」をテーマに
奈良県は11月21日午後2時から4時まで、奈良市の県民くらし相談センターで「女性に対する暴力防止セミナー」を開催する。テーマは「加害者はなぜ、自分の暴力に気づけないの?~加害者の心の動きと関係性を考える~」。立命館大学大学院非常勤講師の伊田広行氏が講師を務める。定員は先着30人、参加無料で、11月18日まで申し込みを受け付ける。後日のアーカイブ配信も予定している。
県は、DV加害者の心理や責任について理解し、被害者の苦痛に向き合いながら、暴力のない対等で尊重し合う関係について考える機会とすると説明している。11月12~25日の「女性に対する暴力をなくす運動」に合わせた事業となる。
「気づけない」ことを免責理由にしない
加害者の心理を扱う際に最も注意が必要なのは、「本人は暴力だと気づいていなかった」という説明が、暴力の責任を薄める方向に使われないことである。DVを心理状態や怒りっぽい性格だけの問題として説明すれば、被害者側の言動が「怒らせた原因」とされる危険もある。
加害者が自分の行為を「心配だった」「相手のためだった」「相手にも原因がある」などと説明したとしても、それによって相手が恐怖を感じ、自分の行動や人間関係を自由に決められなくなっているのであれば、責任の所在は別に考えなければならない。加害者心理を理解する目的は、加害を正当化する理由を探すことではなく、暴力をどのように正当化し、繰り返すのかを把握して再発防止につなげることにある。
国の加害者プログラムも「被害者支援の一環」
内閣府は2020~2022年度に東京都、広島県、熊本県、長崎県、大阪市で配偶者暴力加害者プログラムの試行を行い、2023年5月に実施上の留意事項をまとめた。2024年度からは自治体によるプログラム実施への財政支援も行っている。国はこの取組を、加害者本人を支援する事業としてではなく、被害者支援の一環として整理している。
この考え方は重要である。加害者がプログラムに参加しているから安全だ、反省しているから被害者が戻ってもよい、と判断する制度ではない。被害者の避難、相談、保護命令などの安全確保策を維持しながら、加害者側にも行動の責任を自覚させ、再被害を防ぐことが目的になる。加害者への働きかけと被害者保護は代替関係ではない。
成果を「加害者の自己評価」だけで測らない
行動変容を扱う事業を検証する場合、加害者本人が「暴力をしなくなった」と回答したことだけでは、被害がなくなったかどうかは確認できない。暴力の形が身体的なものから監視や威圧へ変わっていないか、元配偶者や子どもへの接触で不安が続いていないかなど、被害を受ける側の安全を中心に見る必要がある。
11月21日の奈良県の催しは一般向けの啓発セミナーであり、個別の加害者に行動変容を促す専門プログラムそのものではない。それでも、DVを「被害者が逃げる問題」だけとして扱わず、暴力をした側がなぜ自己正当化し、どう責任を引き受けるのかを社会側の課題として扱う点に特徴がある。奈良県が掲げる「加害者の心」を学ぶ取組も、最終的には被害者の安全と自己決定を守ることに接続して評価する必要がある。
奈良県「女性に対する暴力防止セミナー」
URL: https://www.pref.nara.lg.jp/n051/p168018.html
内閣府男女共同参画局「配偶者暴力加害者プログラムについて」
URL: https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/kagaisya/index.html

