個人通報制度とは

個人通報制度とは、人権条約で保障された権利を侵害されたと主張する個人などが、国内の救済手続を尽くしても解決されない場合に、国連の条約機関などに通報し、条約違反の有無について判断を求める制度です。国際人権条約を、国の報告や外交上の議論だけでなく、個人の被害救済にも結び付ける仕組みです。

1.個人通報制度の意味

個人通報制度は、条約上の権利を侵害されたと考える個人が、条約に基づいて設置された委員会に申立てを行う制度です。委員会は、通報の受理可能性を検討し、必要に応じて国から説明を受け、条約違反があったかどうかについて見解や勧告を示します。

この制度は、国内の裁判所に代わって事件を再審理する制度ではありません。原則として、通報者は、国内で利用できる裁判や不服申立てなどの救済手続を尽くしている必要があります。また、対象となる国が、その条約について個人通報制度を受け入れていなければ、通報することはできません。

委員会の見解には、国内裁判所の判決のような強制執行力はありません。しかし、条約機関が国際人権基準に照らして判断を示すことで、被害の救済、制度改正、法令や運用の見直しにつながる場合があります。

2.制度・法律との関係

個人通報制度は、自由権規約、女子差別撤廃条約、社会権規約、子どもの権利条約、障害者権利条約などの選択議定書や、人種差別撤廃条約、拷問等禁止条約、強制失踪条約などの条約中の選択条項によって設けられています。

日本は、自由権規約、女子差別撤廃条約、子どもの権利条約、障害者権利条約、社会権規約などを締結しています。ただし、個人通報制度を定める選択議定書の批准や、条約中の選択条項の受諾は行っていません。そのため、現時点では、日本に対して国連の条約機関へ個人通報を行うことはできません。

日本政府は、個人通報制度の受入れについて、司法制度や立法政策との関係、制度を受け入れる場合の実施体制などを検討課題としてきました。一方、弁護士会や人権団体などからは、国内救済で解決されない人権侵害について国際的な救済手段を確保するため、制度の導入を求める意見が出されています。

3.人権上の論点

個人通報制度の人権上の論点は、国内で救済されなかった人権侵害について、国際人権基準に基づく第三者的な判断を受ける道を開くかどうかにあります。裁判で敗訴した場合や、国内法の仕組みそのものが国際人権条約とずれていると考えられる場合、個人通報制度は、国内制度を外側から点検する役割を持ちます。

特に、差別、表現の自由、身体拘束、家族関係、障害者の権利、女性差別、子どもの権利、外国人の処遇などでは、国内の法令や裁判実務と国際人権基準との関係が問題になることがあります。個人通報制度は、個別事件の救済だけでなく、同じような被害を防ぐための制度改善にもつながり得ます。

ただし、制度を導入した場合でも、すべての通報が受理されるわけではありません。国内救済手続を尽くしているか、同じ事案が他の国際手続で審理されていないか、条約上の権利に関わる主張かなどが確認されます。個人通報制度は、国内の裁判制度を置き換えるものではなく、国内救済を補完し、国際人権条約の実効性を高める制度です。

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