ゲノム情報とは

ゲノム情報とは、個人のDNAの塩基配列などに基づき、その人の体質、病気のかかりやすさ、治療薬への反応、遺伝性疾患との関係などについて意味づけられた情報をいいます。医療や研究では、がん、難病、希少疾患などの診断・治療に役立つ一方で、本人だけでなく血縁者にも関わる情報であり、保険、雇用、結婚、教育などで不当な差別や社会的不利益につながるおそれがあります。ゲノム医療の発展と、個人の尊厳・プライバシー保護をどう両立させるかが重要な論点です。

1.ゲノム情報の意味

ゲノムとは、生物が持つ遺伝情報全体を指す言葉です。人の体は多数の細胞から成り、その中にあるDNAには、体の特徴や機能に関わる情報が含まれています。ゲノム情報は、こうしたDNAの情報を解析し、医学的・生物学的な意味を加えて理解される情報です。

ゲノム情報は、単なる検査数値とは異なります。生まれながらに持っている情報であり、基本的には生涯変わりません。さらに、本人だけでなく、親、子、きょうだいなど血縁者とも一定程度共有されます。そのため、本人の病気の診断や治療に役立つ一方で、家族や将来世代にも関係する情報として、慎重な取扱いが求められます。

医療分野では、ゲノム情報を活用することで、個人の体質や病状に合った診断、治療、予防が可能になるとされています。厚生労働省は、ゲノム医療を、個人のゲノム情報をもとに、その人の体質や病状に適した医療を行うことと説明しています。がんや難病などの分野では、原因遺伝子の探索、薬の選択、治療方針の決定などに活用されています。

2.制度・法律との関係

ゲノム情報は、個人情報保護法との関係が重要です。個人情報保護委員会は、ゲノムデータが個人識別符号に位置付けられていることを示しており、学術研究目的でゲノムデータを取り扱う場合にも個人情報保護法が適用されると説明しています。

個人情報保護委員会のガイドライン資料では、個人識別符号に該当するものとして、細胞から採取されたDNAを構成する塩基の配列のうち、全核ゲノムシークエンスデータ、全エクソームシークエンスデータ、全ゲノムSNPデータなどが示されています。これは、一定のゲノムデータが個人を識別し得る情報として扱われることを意味します。

ゲノム情報は、要配慮個人情報との関係でも問題になります。厚生労働省資料では、個人識別符号が含まれるものとしてゲノムデータ等を挙げ、要配慮個人情報の具体例として診療録、レセプト、健診結果、ゲノム情報等を挙げています。病歴や診療情報と結び付いたゲノム情報は、本人に対する不当な差別や偏見につながり得るため、特に慎重な取扱いが必要です。

研究分野では、「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」も関係します。文部科学省は、同指針の施行に伴い、旧「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」と旧「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」が2021年6月30日をもって廃止されたと説明しています。現在は、生命科学・医学系研究におけるインフォームド・コンセント、研究計画、倫理審査、個人情報保護、研究結果の取扱いなどをこの指針で整理します。

3.人権上の論点

ゲノム情報をめぐる人権上の論点は、本人の同意、プライバシー、差別防止、家族への影響をどう扱うかにあります。ゲノム情報は、本人の現在の健康状態だけでなく、将来の病気のリスクや薬への反応、血縁者との関係を示すことがあります。そのため、本人が知られたくない情報や、家族にも影響する情報が含まれる場合があります。

特に問題になるのが、遺伝情報・ゲノム情報による不当な差別や社会的不利益です。日本医学会と日本医師会は、2022年に共同声明を出し、ゲノム情報が不適切に扱われた場合、患者と血縁者に、保険、雇用、結婚、教育など医療以外の場面で不当な差別や社会的不利益がもたらされる可能性があると指摘しています。

厚生労働省の資料でも、ゲノム情報による差別への不安として、保険加入や保険料で不利に扱われること、結婚や妊娠に際して不利益が生じること、就労で不利に扱われることなどが挙げられています。ゲノム情報の利用が進むほど、医療の精度向上と同時に、情報が本人の不利益に使われない仕組みを整える必要があります。

ゲノム情報は、医療や研究に大きな可能性を持つ一方、本人と家族の人生に深く関わる情報です。ゲノム医療を安心して受けられるようにするには、個人情報保護、研究倫理、遺伝カウンセリング、差別防止、情報提供の分かりやすさを一体的に整える必要があります。用語集では、ゲノム医療、遺伝情報、要配慮個人情報、人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針などとあわせて理解することが重要です。

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