災害対策基本法とは、国土と国民の生命、身体、財産を災害から保護するため、防災に関する国、地方公共団体、指定公共機関などの責務や、災害予防、災害応急対策、災害復旧、被災者保護などの基本事項を定めた法律です。地震、津波、風水害、火山災害などに備える防災行政の土台となる法律であり、避難所、避難行動要支援者、罹災証明書、被災者台帳など、災害時の人権保障とも深く関係します。
1.災害対策基本法の意味
災害対策基本法は、日本の防災行政の基本法です。災害が発生する前の予防、災害発生時の応急対応、災害後の復旧・復興に関する基本的な仕組みを定めています。国、都道府県、市町村、指定公共機関、住民、事業者などが、それぞれどのような役割を担うかを整理する法律です。
この法律は、災害を単なる自然現象としてではなく、人の生命、身体、財産、生活基盤に大きな影響を及ぼす社会的な危機として扱います。災害時には、避難、救助、医療、物資供給、住宅、福祉、情報提供、交通、通信など、多くの分野が同時に動く必要があります。災害対策基本法は、それらを総合的・計画的に進めるための枠組みです。
人権との関係では、被災者を「支援を受ける対象」としてだけでなく、尊厳を持って生活を再建する権利主体として捉えることが重要になります。避難所での生活環境、プライバシー、女性や子ども、高齢者、障害者、外国人、性的マイノリティ、在宅避難者への配慮は、災害対応の実務上の課題であると同時に、人権上の課題でもあります。
2.制度・法律との関係
災害対策基本法は、国の中央防災会議、防災基本計画、都道府県・市町村の地域防災計画などの根拠となる法律です。国や地方公共団体は、この法律に基づき、平常時から災害に備え、災害発生時には災害対策本部の設置、避難情報の発令、救助・応急対策、復旧などを行います。
2013年の災害対策基本法改正では、東日本大震災後の課題を踏まえ、被災者支援に関する基本理念、避難行動要支援者名簿の作成、避難所における生活環境の整備、罹災証明書の交付、被災者台帳の整備などが盛り込まれました。内閣府の防災白書も、この改正により被災者支援の規定が新たに盛り込まれたと整理しています。
避難行動要支援者名簿は、高齢者、障害者、乳幼児、妊産婦、外国人など、災害時に自力で避難することが難しい人を支援するための仕組みです。罹災証明書は、住宅などの被害程度を市町村が証明するもので、被災者生活再建支援金、税や保険料の減免、融資、各種支援制度の利用に関わります。被災者台帳は、被災者の支援状況を把握し、必要な支援を継続的に届けるための制度です。
関連法令としては、災害救助法、被災者生活再建支援法、特定非常災害特別措置法、災害弔慰金法、建築基準法、生活保護法、生活困窮者自立支援法などがあります。災害対策基本法が防災行政全体の基本法であるのに対し、災害救助法は避難所、応急仮設住宅、食品・飲料水の供給などの救助を定め、被災者生活再建支援法は住宅被害を受けた世帯への支援金と関係します。
3.人権上の論点
災害対策基本法を人権の文脈で考える際の論点は、災害時に被災者の生命を守るだけでなく、避難生活や生活再建の過程で尊厳を損なわないことにあります。避難所では、雑魚寝、トイレ環境、入浴、授乳、着替え、プライバシー、感染症対策、女性や子どもの安全、障害者や高齢者への支援が問題になります。内閣府男女共同参画局の防災・復興ガイドラインも、福祉避難所の開設・運営において女性と男性の影響やニーズの違いに配慮することなどを示しています。
災害時には、平常時から弱い立場に置かれている人ほど、被害を受けやすくなります。高齢者や障害者は避難そのものが難しい場合があり、外国人は災害情報を理解しにくい場合があります。女性や子どもは、避難所や仮設住宅で性暴力、DV、ハラスメントの被害に遭うおそれがあります。在宅避難者や車中泊避難者は、支援物資や情報から取り残されることがあります。
災害後には、風評被害や差別も問題になります。原子力災害の避難者、感染症流行下の被災者、外国人住民、障害のある人などに対し、誤解や偏見に基づく中傷が起きることがあります。災害時の情報不足や不安は、特定の人々への排除や差別につながりやすいため、行政による正確な情報提供と、相談・支援窓口の整備が必要になります。
災害対策基本法は、防災行政の基本法であると同時に、災害時に人の生命、身体、生活、尊厳を守るための制度的基盤です。震災等の災害を人権課題として理解するには、避難行動要支援者名簿、避難所の生活環境、罹災証明書、被災者台帳、災害救助法、被災者生活再建支援法などとあわせて押さえる必要があります。