売春防止法とは

売春防止法とは、売春を助長する行為等を処罰することにより、売春の防止を図る法律です。売春が人としての尊厳を害するものであるとの考え方に基づき、売春の勧誘、周旋、場所提供、管理売春、資金提供などを処罰対象としています。人身取引との関係では、性的搾取や売春の強要、弱い立場にある人を売春に追い込む行為を考えるうえで重要な法令です。

1.売春防止法の意味

売春防止法は、売春そのものと、売春を助長する行為を規制する法律です。同法は「売春」を、対償を受け、または受ける約束で、不特定の相手方と性交することと定義しています。法律上、何人も売春をし、またはその相手方となってはならないとされています。

ただし、同法の刑事処分の中心は、売春を助長する行為です。たとえば、公衆の目に触れる方法で売春の相手方を勧誘する行為、売春の周旋、売春を行う場所の提供、売春をさせる業の管理、売春をさせる目的で金品を供与する行為などが処罰対象になります。人身取引の文脈では、本人を支配し、売春や性的サービスを強いる側の行為をどう捉えるかが重要になります。

政府広報は、人身取引について、売春や性的サービスの強要などによる性的搾取だけでなく、労働搾取や臓器摘出目的の場合もあると説明しています。被害者を売買する場合に限らず、暴力、脅迫、詐欺、弱い立場へのつけ込みなどにより、被害者を支配下に置いたり引き渡したりすることが人身取引に当たります。

2.制度・法律との関係

売春防止法は、1956年に制定された法律です。現行法の目的規定は、売春が人としての尊厳を害し、性道徳に反し、社会の善良の風俗を乱すものであることに鑑み、売春を助長する行為等を処罰することによって売春の防止を図るとしています。

重要なのは、2024年4月施行の「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」との関係です。従来、困難を抱える女性への支援は、売春防止法に基づく婦人保護事業を土台としてきました。しかし、性暴力被害、生活困窮、家庭に居場所がないことなど、女性をめぐる課題が複雑化・多様化したことを受け、支援を中心に据えた新法が制定されました。内閣府男女共同参画局も、女性支援新法により、従来の売春防止法に基づく支援の枠組みから転換したことを説明しています。

この改正に伴い、売春防止法からは、補導処分に関する第3章と、保護更生に関する第4章が削除されました。現在の売春防止法は、売春を助長する行為等の処罰を中心とする法律として理解する必要があります。困難を抱える女性への相談、保護、自立支援は、現在では女性支援新法の枠組みで整理されます。

人身取引対策行動計画2022では、売春事犯や風俗関係事犯等の人身取引関連事犯について、取締りを徹底し、人身取引事犯の掘り起こしを図ることが示されています。売春防止法は、人身取引を直接包括的に定義する法律ではありませんが、性的搾取を目的とする支配や周旋、管理の実態を摘発するうえで関係する法律です。

3.人権上の論点

売春防止法を人身取引の文脈で考える際の論点は、売春や性的サービスが、本人の自由な選択ではなく、暴力、脅迫、借金、貧困、住居喪失、在留資格、家族関係、孤立などによって強いられている場合があることです。表面的には本人が応じているように見えても、実際には逃げにくい支配関係の中に置かれていることがあります。

性的搾取を受ける人を、単に「売春をした人」として扱うだけでは、人身取引の被害を見落とすおそれがあります。人身取引では、被害者が加害者や仲介者に管理され、金銭を取り上げられ、暴力や脅しを受け、住まいや在留資格を利用して支配される場合があります。政府広報も、人身取引の被害者には社会的・経済的に弱い立場にある女性や子どもが多い一方、男性も被害者となり得ると説明しています。

2024年以降の制度整理では、売春防止法を処罰法として理解しつつ、困難を抱える女性への支援は女性支援新法の枠組みで考える必要があります。これは、性暴力、生活困窮、家庭関係の破綻、障害、孤立などを抱える人を、補導や更生の対象としてではなく、支援を必要とする権利主体として扱う方向への転換です。

売春防止法は、人身取引対策において、性的搾取や売春を助長する行為を処罰するための関連法令です。ただし、人身取引の被害者を保護するには、売春防止法だけでは足りません。警察による取締り、女性相談支援センター、児童相談所、出入国在留管理庁、医療機関、民間支援団体が連携し、被害者の安全確保、生活支援、心理的ケア、法的支援につなげることが重要になります。

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