人身取引議定書とは

人身取引議定書とは、人身取引を防止し、抑止し、処罰するための国際的な枠組みを定めた議定書です。正式名称は「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する人(特に女性及び児童)の取引を防止し、抑止し及び処罰するための議定書」です。国際組織犯罪防止条約を補足する議定書の一つで、人身取引の定義、加害行為の犯罪化、被害者保護、出入国管理、国際協力などを定めています。

1.人身取引議定書の意味

人身取引議定書は、人身取引を国際的に防止し、加害者を処罰し、被害者を保護するために作られた国際文書です。人身取引は、性的搾取、労働搾取、奴隷化、隷属、臓器摘出などを目的として、人を支配下に置く重大な人権侵害です。

この議定書の大きな特徴は、人身取引を「行為」「手段」「目的」の組合せで定義している点にあります。警察庁は、人身取引議定書第3条に基づき、人身取引を、搾取を目的とし、暴力などの手段を用いて、対象者を獲得するなどの行為をすることと説明しています。被害者が18歳未満の児童の場合は、暴力や脅迫などの手段がなくても、人身取引に当たり得ます。

ここでいう「搾取」には、少なくとも、売春その他の性的搾取、強制的な労働や役務の提供、奴隷化またはこれに類する行為、隷属、臓器の摘出が含まれます。被害者が表面的に同意しているように見える場合でも、暴力、脅迫、詐欺、権力の濫用、ぜい弱な立場へのつけ込みなどが用いられていれば、その同意は人身取引の成立を否定するものではありません。

2.制度・法律との関係

人身取引議定書は、国際組織犯罪防止条約を補足する議定書です。外務省は、人身取引議定書について、人身取引を防止し、これと戦うための協力を促進する国際的な法的枠組みを構築することを目的とし、人身取引行為の犯罪化、被害者の保護と送還、出入国管理に関する措置などを定めるものと説明しています。

日本は、2002年12月9日にこの議定書に署名し、2005年6月8日に国会承認を経て、2017年7月11日に受諾書を寄託しました。外務省は、2017年7月14日に公布・告示されたことも示しています。

国内法との関係では、刑法の人身売買罪、略取・誘拐に関する罪、児童福祉法、児童買春・児童ポルノ禁止法、売春防止法、出入国管理及び難民認定法、労働関係法令などが関係します。人身取引は一つの法律だけで対応する問題ではなく、性的搾取、労働搾取、児童保護、外国人の在留、労働環境、福祉支援が重なって生じるためです。

政府の「人身取引対策行動計画2022」も、人身取引議定書の定義を前提にしています。警察庁も、同議定書第3条の定義に基づき、人身取引を説明した上で、政府が行動計画2022に基づいて対策に取り組んでいると説明しています。

3.人権上の論点

人身取引議定書をめぐる人権上の論点は、人身取引を単なる不法就労や売買春の問題としてではなく、人の自由と尊厳を奪う搾取の構造として捉える点にあります。被害者は、暴力や脅迫だけでなく、借金、在留資格、言語の壁、雇用主への依存、家族への送金、住まいの喪失などによって、逃げられない状態に置かれることがあります。

児童については、さらに強い保護が必要です。人身取引議定書では、18歳未満の児童について、搾取を目的として獲得、輸送、引渡し、蔵匿、収受する行為は、暴力や脅迫などの手段がなくても人身取引とみなされます。これは、児童が性的搾取、労働搾取、犯罪行為への利用などの被害に遭いやすく、形式的な同意を重視すべきではないという考え方に基づきます。

被害者保護の面では、取締りだけでなく、安全な住まい、医療、心理的ケア、通訳、法的支援、在留に関する配慮、帰国または国内での生活再建支援が必要になります。被害者を不法滞在者や不法就労者としてだけ扱えば、被害申告は難しくなり、加害者や仲介者による支配が続くおそれがあります。

人身取引議定書は、人身取引を国境を越える組織犯罪として扱うだけでなく、被害者の保護と回復を国際的に進めるための枠組みです。日本の人身取引対策を理解する際には、人身取引、人身取引対策行動計画、人身売買罪とあわせて、この議定書の定義と被害者保護の考え方を押さえる必要があります。

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