アイヌ施策推進法とは

アイヌ施策推進法とは、正式には「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」といい、アイヌの人々が民族としての誇りを持って生活できる社会を実現するため、国や地方公共団体の施策を総合的に進める法律です。平成31年法律第16号として制定され、令和元年5月24日に施行されました。アイヌ文化の振興だけでなく、地域振興、産業振興、観光振興、差別防止、啓発などを含む法律です。

1.アイヌ施策推進法の意味

アイヌ施策推進法は、アイヌの人々を、日本列島北部周辺、とりわけ北海道の先住民族であるとの認識に立って、施策を進める法律です。従来のアイヌ政策は、文化振興や福祉政策を中心に語られることが多くありましたが、この法律は、文化、地域、産業、観光、教育・啓発を含めた総合的な施策として整理している点に特徴があります。

法律上の「アイヌ文化」には、アイヌ語、アイヌにおいて継承されてきた生活様式、音楽、舞踊、工芸その他の文化的所産が含まれます。アイヌ文化は、単なる伝統芸能や観光資源ではなく、言語、信仰、生活、自然との関係、地域の歴史と結びつく固有の文化です。

この法律は、アイヌ文化の振興とともに、アイヌの伝統等に関する知識の普及・啓発を進めることも目的としています。アイヌの人々に対する偏見や差別は、歴史的経緯や文化への無理解と結びついてきた面があります。そのため、文化振興と啓発は、単なる文化政策ではなく、差別を防ぎ、民族としての誇りを尊重する施策として扱われます。

2.制度・法律との関係

アイヌ施策推進法は、国に対し、アイヌ施策を総合的・継続的に進めるための基本方針を定めることを求めています。市町村は、基本方針に基づき、アイヌ施策推進地域計画を作成し、内閣総理大臣の認定を受けることができます。認定を受けた地域計画に基づく事業には、交付金の交付などの特別の措置が設けられています。

施策の対象は、文化振興に限定されません。アイヌ文化の保存・継承、アイヌ語の普及、観光振興、地域振興、産業振興、交流事業、教育・啓発など、地域の実情に応じた事業が想定されています。北海道白老町のウポポイ、すなわち民族共生象徴空間も、アイヌ文化の復興・発展に向けた拠点としてこの制度と関係します。

アイヌ施策推進法は、それ以前の「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」を引き継ぎ、発展させた法律です。平成20年には、衆参両院で「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」が採択され、その前年には国連で「先住民族の権利に関する国際連合宣言」が採択されました。こうした国内外の動きも、同法成立の背景にあります。

3.人権上の論点

アイヌ施策推進法の人権上の論点は、アイヌの人々の民族としての誇り、文化、言語、歴史をどのように尊重するかという点にあります。法律は、何人もアイヌの人々に対して、アイヌであることを理由として差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならないと定めています。

アイヌの人々に対する差別は、個別の侮辱や偏見だけでなく、歴史、文化、言語を十分に学ぶ機会が少ないこととも関係します。アイヌ文化を観光や展示の対象として扱うだけでは、本人たちの生活、権利、歴史認識への理解が十分とはいえません。アイヌ施策推進法は、文化振興と啓発を通じて、アイヌの人々が民族としての誇りを持って生活できる環境を整えることを目指しています。

一方で、同法は先住民族の権利に関する国際的な議論をすべて国内制度化したものではありません。土地、資源、遺骨返還、教育、言語復興、地域振興などをめぐっては、なお個別の制度や施策の中で検討される課題があります。アイヌ施策推進法という用語は、アイヌ政策を文化振興だけでなく、民族的尊厳、差別防止、地域施策、先住民族政策の問題として理解するための基本用語です。

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