社会的障壁とは、障害のある人が日常生活や社会生活を営むうえで障壁となる、社会の中にある事物、制度、慣行、観念などをいいます。段差や設備の不備だけでなく、分かりにくい手続、情報提供の不足、画一的なルール、偏見や思い込みも含まれます。障害を本人の心身の機能だけで捉えるのではなく、社会の側にある障壁にも目を向けるための重要な用語です。
1.社会的障壁の意味
社会的障壁は、障害のある人の生活を妨げる社会の側の要因を指します。たとえば、車いす使用者にとって階段しかない建物は移動の障壁になります。視覚障害のある人にとって、音声案内や点字、読み上げに対応した情報がないことは、情報へのアクセスを妨げます。聴覚障害のある人にとって、音声だけで行われる説明や緊急放送は、必要な情報を得るうえで障壁になります。
発達障害や精神障害、知的障害のある人にとっては、抽象的で複雑な説明、急な予定変更、感覚刺激の強い環境、休憩を取りにくい職場や学校の慣行などが障壁になることがあります。外見から分かりにくい障害の場合、周囲が困難に気づかず、「努力不足」「わがまま」「協調性がない」と受け止めてしまうこともあります。
社会的障壁という考え方は、障害のある人だけに変化や努力を求める発想を見直すものです。本人の障害特性に応じた支援が必要な場合でも、同時に、社会の制度、環境、情報、慣行、意識を変えることで、生活上の困難を減らせる場合があります。
2.制度・法律との関係
社会的障壁は、障害者基本法や障害者差別解消法で使われている基本概念です。障害者基本法では、障害者を、心身の機能の障害があり、障害と社会的障壁により継続的に日常生活または社会生活に相当な制限を受ける状態にある人と定義しています。ここでは、障害による困難を本人の機能だけでなく、社会的障壁との関係で捉えています。
障害者差別解消法でも、社会的障壁の除去が重要な考え方になります。同法は、行政機関等と事業者に対し、障害を理由とする不当な差別的取扱いを禁止し、障害のある人から意思の表明があった場合には、過重な負担でない範囲で合理的配慮を提供することを求めています。合理的配慮とは、具体的な場面で社会的障壁を取り除くための必要かつ合理的な調整と理解できます。
社会的障壁は、バリアフリー法、障害者雇用促進法、学校教育、行政手続、医療、交通、情報アクセシビリティなどとも関係します。建物や交通機関の整備、職場での合理的配慮、学校での支援、ウェブサイトや申請手続の分かりやすさなどは、いずれも社会的障壁の除去と結びつく問題です。
3.人権上の論点
社会的障壁の人権上の論点は、障害のある人が生活しにくい原因を、本人の障害だけに押し込めないことにあります。障害のある人が学校に通えない、働けない、交通機関を使えない、行政手続を利用できない、地域活動に参加できない場合、その原因は本人の心身の機能だけではありません。制度や環境が多数派を前提につくられていることが、参加の制限を生んでいる場合があります。
偏見や固定観念も社会的障壁です。「障害者にはこの仕事は難しい」「認知症の人には説明しても分からない」「精神障害のある人は危険だ」といった思い込みは、本人の能力や希望を確認する前に機会を奪うことがあります。物理的な段差と同じように、意識や慣行の中にある障壁も、教育、雇用、医療、住まい、地域生活への参加を妨げます。
社会的障壁を取り除くことは、特別扱いを広げることではありません。障害のある人が他の人と同じように学び、働き、移動し、情報を得て、社会に参加できる条件を整えることです。行政機関、学校、企業、医療機関、交通事業者、地域団体が、自らの制度や運用の中にどのような障壁があるかを確認することが、社会的障壁という用語を実務に生かす出発点になります。