意思決定支援とは、認知症や障害などにより判断や意思表示に支援が必要な人について、本人の意思をできる限り確認し、その意思に基づいて生活上・法律上の選択ができるよう支えることをいいます。高齢者分野では、認知症の人の介護サービス利用、施設入所、医療、財産管理、住まいの選択などと深く関わる用語です。厚生労働省のガイドラインも、認知症の人が自らの意思に基づいた日常生活・社会生活を送れることを目指すものとして整理しています。
1.意思決定支援の意味
意思決定支援は、本人に代わって家族や支援者が決めることではありません。本人が何を望んでいるのか、どのような生活を大切にしてきたのか、どの選択なら本人にとって納得しやすいのかを、会話、表情、行動、過去の生活歴、周囲の情報から丁寧に確認する支援です。
認知症の人の場合、説明を一度で理解できなかったり、選択肢を整理するのに時間がかかったりすることがあります。しかし、それは直ちに「決められない」という意味ではありません。説明の方法を変える、選択肢を絞る、静かな環境を整える、本人が信頼する人に同席してもらうなどの工夫により、本人の意思を確認できる場合があります。
意思決定支援で重視されるのは、「本人にとって安全か」だけではありません。安全を理由に、外出、金銭管理、交友関係、介護サービスの選択を一方的に制限すれば、本人の生活は狭められます。支援者には、危険を減らしながら、本人の希望や生活の継続をどう守るかを考える姿勢が求められます。
2.制度・法律との関係
意思決定支援は、成年後見制度、高齢者虐待防止、認知症施策、介護保険サービス、医療・福祉の相談支援と関係します。成年後見制度では、後見人等が本人の財産管理や契約を支援しますが、その場合でも、本人の意思を無視してよいわけではありません。厚生労働省は「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」などを公表し、後見事務においても本人の意思を尊重する考え方を示しています。
認知症分野では、「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」があります。このガイドラインは、認知症の人の意思が日常生活や社会生活に適切に反映されるよう、意思をできる限り丁寧にくみ取るための標準的なプロセスや留意点を示しています。
認知症基本法との関係も重要です。同法は、認知症の人が尊厳を保持しながら希望を持って暮らせる共生社会の実現を目的とする法律です。意思決定支援は、この理念を具体的な介護、医療、地域生活の場面で実現するための実務的な考え方といえます。
3.人権上の論点
意思決定支援の中心にあるのは、本人の自己決定権と尊厳です。高齢者が認知症になったり、介護を受ける立場になったりすると、周囲が「本人のため」と考えて、住まい、医療、介護、財産管理を先に決めてしまうことがあります。しかし、本人の意思を確認しない支援は、保護の形をとっていても、本人の生活を他者が管理する結果になりかねません。
特に問題となるのは、本人の意思と家族・施設・医療機関の都合がずれる場面です。施設入所を望まない人、慣れた地域で暮らしたい人、自分の年金を自分のために使いたい人、延命治療や医療処置について希望を持つ人など、本人の意思は生活の細部に表れます。意思決定支援は、こうした声を「認知症だから分からない」と扱わないための仕組みです。
ただし、本人の希望をそのまま実行すればよいという単純な話でもありません。生命・身体に重大な危険がある場合や、財産被害のおそれがある場合には、支援者が慎重に調整する必要があります。その場合でも、まず本人の意思を確認し、難しい場合には過去の言動や生活歴から意思を推定し、最後の手段として本人の利益を考えるという順序が欠かせません。意思決定支援という用語は、高齢者を「保護される人」としてだけでなく、自分の生活を選び続ける主体として扱うための基本用語です。