ジェンダーとは、社会や文化の中で形成される「女性らしさ」「男性らしさ」や、性別に基づく役割、期待、慣行などを指す言葉です。生物学的な性別そのものではなく、社会の中でつくられ、受け継がれてきた性別に関する考え方や仕組みを考える際に使われます。ジェンダー平等とは、性別にかかわらず、すべての人が権利、機会、責任を等しく持ち、自分らしく生きられる状態を目指す考え方です。
1.ジェンダーの意味
ジェンダーは、性別に関する社会的・文化的な意味づけを表す用語です。たとえば、「男性は仕事を優先するもの」「女性は家事や育児を担うもの」「男の子は泣いてはいけない」「女の子は控えめであるべきだ」といった考え方は、身体の違いそのものから当然に導かれるものではなく、社会の中で作られてきた性別役割の一例です。
ジェンダーという言葉は、性別をめぐる不平等や偏見を分析するために用いられます。性別によって進学、就職、賃金、昇進、家事・育児・介護の負担、政治参加、医療へのアクセスなどに差が生じている場合、その背景には個人の能力や選択だけでなく、社会的な慣行や固定観念が関わっていることがあります。
ジェンダー平等は、単に「男女を同じに扱う」という意味ではありません。性別によって不利益を受けやすい状況や、歴史的・社会的に偏ってきた役割分担を確認し、実質的に対等な機会と扱いを確保する考え方です。形式上は同じ制度であっても、実際には一方の性別に負担が偏る場合には、制度や運用を見直す必要があります。
2.制度・法律との関係
日本では、憲法第14条が法の下の平等を定め、性別による差別を禁止しています。これに加えて、男女共同参画社会基本法は、男女が社会の対等な構成員として、自らの意思で社会のあらゆる分野に参画する機会を確保し、政治的、経済的、社会的、文化的利益を受け、責任を共に担う社会の形成を目的としています。
ジェンダーに関わる法律には、男女雇用機会均等法、女性活躍推進法、育児・介護休業法、配偶者暴力防止法、困難な問題を抱える女性への支援に関する法律などがあります。これらは、雇用、家庭、暴力被害、相談支援、社会参加など、性別に関わる不利益や困難に対応する制度です。
国際的には、女子差別撤廃条約が女性に対する差別の撤廃を求めています。国連の持続可能な開発目標、いわゆるSDGsでも、目標5としてジェンダー平等の達成とすべての女性・女児のエンパワーメントが掲げられています。ジェンダー平等は、女性だけを対象にした政策ではなく、性別に基づく固定的な役割分担や不均衡な権力関係を見直す課題として扱われています。
3.人権上の論点
ジェンダーをめぐる人権上の論点は、性別に基づく固定観念が、個人の選択や尊厳を制限していないかという点にあります。女性が昇進や賃金で不利益を受けること、男性が育児や介護への参加をためらわされること、性的少数者が性別規範から外れる存在として排除されることは、いずれもジェンダーに関わる問題です。
女性に関しては、セクシュアルハラスメント、DV、性暴力、妊娠・出産を理由とする不利益取扱い、政治や経済分野での代表性の低さ、無償の家事・育児・介護の偏りなどが課題となります。これらは個別の被害や生活上の困難であると同時に、性別によって権利や機会が左右される構造的な問題でもあります。
ジェンダー平等を考える際には、女性と男性の二分法だけで整理しきれない問題にも注意が必要です。性自認、性的指向、障害、年齢、国籍、貧困、ひとり親であることなどが重なると、不利益はさらに見えにくくなる場合があります。誰がどの場面で排除され、どのような制度や慣行が不利益を生んでいるのかを具体的に見ることが、ジェンダーに関する人権課題を理解する出発点になります。