バリューチェーンとは

バリューチェーンとは、企業が製品やサービスを生み出し、顧客や社会に届けるまでの一連の活動を、価値の連鎖として捉える考え方です。ビジネスと人権の分野では、原材料調達、製造、物流、販売だけでなく、サービス提供、利用、廃棄、投融資、広告、データ利用などを含め、企業活動が人権に与える影響を広く把握するための用語として使われます。

1.バリューチェーンの意味

バリューチェーンは、企業活動を、原材料を仕入れて製品を作るだけの流れではなく、企画、研究開発、調達、製造、物流、販売、利用、保守、廃棄、リサイクルなど、価値が生み出される一連の活動として捉える言葉です。サプライチェーンが主に供給の流れを指すのに対し、バリューチェーンは、企業が価値を生み出し、社会に影響を与える活動全体をより広く含みます。

たとえば、衣料品であれば、原材料の生産、縫製、輸送、販売だけでなく、広告、店舗での接客、消費者の利用、廃棄やリサイクルまでが関係します。ITサービスであれば、開発、データ収集、利用者への提供、アルゴリズムによる判断、個人情報の管理、サービス終了後のデータ処理なども人権への影響を持ちます。

ビジネスと人権では、企業が自社の直接の職場だけを見ていては不十分です。製品やサービスがどこで作られ、誰によって運ばれ、どのように使われ、その結果として誰の権利に影響が及ぶのかを確認する必要があります。バリューチェーンという言葉は、企業活動の影響範囲を広く捉えるために使われます。

2.制度・法律との関係

バリューチェーンは、特定の法律名ではありません。しかし、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」、OECD多国籍企業行動指針、OECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス、日本政府の「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を理解する上で重要な考え方です。

国連指導原則では、企業は、自社が人権への負の影響を引き起こさないこと、助長しないことに加え、取引関係を通じて自社の事業、製品、サービスと直接関連する負の影響に対応することが求められます。この「事業、製品、サービス」という考え方は、調達や製造だけでなく、販売後の利用やサービス提供の段階にも人権への影響が及ぶことを示しています。

OECDの責任ある企業行動に関する考え方でも、企業は自社の事業、サプライチェーン、ビジネス上の関係における実際・潜在的な負の影響を評価し、対処することが求められます。バリューチェーンを意識することで、企業は一次取引先だけでなく、二次・三次下請、販売先、利用者、投融資先、委託先、業務提携先など、より広い関係を確認しやすくなります。

企業実務では、バリューチェーンの把握は人権デュー・ディリジェンスの前提になります。どの活動で、どのライツホルダーに、どのような負の影響が起こり得るかを整理しなければ、人権リスクの特定はできません。サプライチェーン調査だけでなく、製品の使われ方、広告表現、データ処理、顧客対応、廃棄段階まで含めた検討が必要になる場合があります。

3.人権上の論点

バリューチェーンの人権上の論点は、企業活動による人権への影響が、企業の目に見える場所だけでなく、事業の前後の段階にも広がる点にあります。原材料を作る人、工場で働く人、物流を担う人、販売現場で働く人、サービスを利用する消費者、地域住民、廃棄物処理に関わる人など、多くのライツホルダーが企業活動の影響を受けます。

たとえば、製造段階で強制労働や児童労働がなくても、広告が差別的な固定観念を助長する場合、サービスの利用過程で個人情報が不適切に扱われる場合、投融資先の事業が地域住民の生活環境に影響を与える場合には、企業は人権への負の影響と関係する可能性があります。バリューチェーンの考え方は、こうした見えにくい影響を把握するために重要です。

また、企業は自社の影響力がどこまで及ぶのかを考える必要があります。すべての関係先を同じ深さで調査することは現実的ではありませんが、深刻な人権リスクがある分野、弱い立場に置かれやすい人が関係する分野、自社の製品やサービスと強く結び付く分野については、優先的に確認する必要があります。

用語集でバリューチェーンを扱う意義は、ビジネスと人権を、調達先や工場だけの問題として狭く理解しないためです。企業の人権尊重責任は、自社内の労務管理だけでなく、製品やサービスが生まれ、使われ、廃棄されるまでの一連の活動の中で、誰の権利にどのような影響が及ぶのかを確認することから始まります。

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