強制労働とは

強制労働とは、処罰や不利益を受けるおそれの下で、本人の自由な意思によらず働かされることを指します。ビジネスと人権の分野では、サプライチェーン上の重大な人権リスクの一つであり、外国人労働者、移住労働者、技能実習生、下請労働者、海外工場の労働者などに関わる問題として扱われます。

1.強制労働の意味

強制労働は、単に労働条件が厳しいことや、仕事を辞めにくいことだけを意味する言葉ではありません。ILO第29号条約では、処罰の脅威の下で強要され、本人が自発的に申し出たものではない労務を強制労働と定義しています。ここでいう処罰の脅威には、暴力や監禁だけでなく、賃金不払い、借金による拘束、身分証明書の取り上げ、解雇の脅し、通報や送還をほのめかすことなども含まれ得ます。

強制労働は、本人が最初は同意して働き始めた場合にも起こり得ます。雇用契約を結んでいても、実際には退職の自由がない、借金返済を理由に拘束される、違約金を請求される、パスポートを取り上げられる、移動や外出を制限される、賃金を支払われないなどの事情があれば、強制労働の問題が生じます。

ビジネスと人権の文脈では、強制労働は企業本体の職場だけでなく、サプライチェーンの中で起きることがあります。原材料の生産、農林水産業、建設、縫製、製造、物流、清掃、警備、宿泊・外食、介護など、人手不足や低価格競争が強い現場では、労働者が弱い立場に置かれやすくなります。

2.制度・法律との関係

強制労働に関する中心的な国際基準は、ILOの強制労働条約第29号と強制労働廃止条約第105号です。第29号条約は強制労働の定義を示し、強制労働を抑止・処罰すべきものとして位置付けています。第105号条約は、政治的圧制、労働規律、ストライキ参加への制裁、差別的措置などの手段として強制労働を用いることの廃止を求める条約です。

ILO中核的労働基準でも、強制労働の撤廃は基本的原則の一つです。企業が人権方針や人権デュー・ディリジェンスを行う場合、強制労働の有無は必ず確認すべき重大な論点になります。国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」やOECD多国籍企業行動指針、ILO多国籍企業宣言も、企業が自社や取引関係を通じた人権への負の影響に対応することを求めています。

日本国内では、労働基準法第5条が強制労働を禁止しています。同条は、使用者が暴行、脅迫、監禁その他精神または身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならないと定めています。労働条件明示、賃金支払い、労働時間、退職の自由、職業紹介、外国人労働者の在留資格や雇用管理など、複数の制度が強制労働の防止と関係します。

企業実務では、採用時の手数料負担、借金や保証金、違約金条項、身分証明書の保管、寮からの移動制限、退職手続、賃金控除、長時間労働、言語対応、相談窓口の有無などを確認する必要があります。取引先の労働者についても、書面調査だけでなく、必要に応じて現場確認や労働者からの聞き取りを行うことが重要です。

3.人権上の論点

強制労働の人権上の論点は、人が自由な意思に反して労働を強いられ、身体の自由、職業選択の自由、人格の尊厳、生活の安全を奪われる点にあります。労働は生活のために必要な行為ですが、脅しや拘束の下で働かされる場合、それは雇用関係ではなく、人権侵害の問題になります。

特にリスクが高いのは、雇用主や仲介業者に依存しやすい労働者です。外国人労働者、移住労働者、技能実習生、非正規労働者、季節労働者、借金を抱えた労働者、言語や制度に不慣れな労働者は、賃金未払い、身分証明書の取り上げ、退職妨害、通報や送還の脅しに対して弱い立場に置かれることがあります。

企業にとって、強制労働は自社が直接行っていなければ無関係という問題ではありません。サプライチェーンのどこかで強制労働が行われていれば、企業の製品やサービスがその人権侵害と結び付く可能性があります。人権デュー・ディリジェンスでは、取引先任せにせず、採用経路、労働条件、労働者の移動の自由、退職の自由、相談窓口、救済措置を確認する必要があります。

用語集で強制労働を扱う意義は、ビジネスと人権を「企業の社会的責任」という抽象的な話ではなく、働く人の自由と尊厳に関わる問題として理解できるようにする点にあります。強制労働を防ぐには、安い労働力や短納期を当然視する取引慣行を見直し、サプライチェーン上の労働者が自由に働き、自由に辞め、被害を訴えられる仕組みを整えることが必要です。

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