OECDデュー・ディリジェンス・ガイダンスとは、企業が責任ある企業行動を実践するために、人権、労働、環境、腐敗防止、消費者利益などに関する負の影響を特定し、防止・軽減し、対応する手順を示した国際的な実務文書です。OECD多国籍企業行動指針を企業が実務に落とし込むための手引きとして位置付けられます。
1.OECDデュー・ディリジェンス・ガイダンスの意味
OECDデュー・ディリジェンス・ガイダンスは、正式には「責任ある企業行動のためのOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス」と呼ばれます。企業が、自社の事業、サプライチェーン、取引関係を通じて、人や社会、環境に与える負の影響を把握し、必要な対応を行うための考え方を整理した文書です。
ここでいうデュー・ディリジェンスは、企業買収などで使われる財務・法務調査だけを意味しません。ビジネスと人権の分野では、企業活動が労働者、消費者、地域住民、取引先の従業員、外国人労働者、子どもなどに与える実際または潜在的な負の影響を確認し、防止・軽減し、対応状況を説明する一連のプロセスを指します。
このガイダンスの特徴は、人権だけでなく、雇用・労使関係、環境、贈賄防止、消費者利益、情報開示など、責任ある企業行動全体を対象としている点です。企業が人権デュー・ディリジェンスを行う場合にも、環境、労働、安全衛生、腐敗防止、消費者保護などが相互に関係することがあります。
2.制度・法律との関係
OECDデュー・ディリジェンス・ガイダンスは、OECD責任ある企業行動に関する多国籍企業行動指針と密接に関係しています。OECD多国籍企業行動指針は、多国籍企業に対して責任ある企業行動を勧告する国際文書です。ガイダンスは、その指針が求めるデュー・ディリジェンスを、企業が理解し、実施するための実務的な手引きです。
このガイダンスは、条約や法律のように企業を直接拘束するものではありません。罰則を定める国内法でもありません。しかし、国際的な責任ある企業行動の標準として、各国政府の政策、企業向けガイドライン、投資家の評価、サステナビリティ情報開示、公共調達、取引先管理などに影響を与えています。
ガイダンスでは、責任ある企業行動を企業方針と管理システムに組み込むこと、負の影響を特定・評価すること、負の影響を停止・防止・軽減すること、実施状況と結果を追跡すること、対応状況を説明・開示すること、必要に応じて是正または是正への協力を行うことが、デュー・ディリジェンスの基本的な流れとして整理されています。
日本政府の「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」も、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」やOECD多国籍企業行動指針などを踏まえて策定されています。企業が日本政府ガイドラインを理解する際にも、OECDデュー・ディリジェンス・ガイダンスをあわせて読むことで、リスクベース・アプローチ、負の影響、是正、ステークホルダーとの対話などの考え方を整理しやすくなります。
3.人権上の論点
OECDデュー・ディリジェンス・ガイダンスの人権上の論点は、企業が「自社にとってのリスク」だけでなく、「人や社会に与える負の影響」を中心に考える点にあります。企業の評判、訴訟、取引停止のリスクも重要ですが、ビジネスと人権で中心に置かれるべきなのは、労働者、消費者、地域住民などのライツホルダーの権利です。
このガイダンスは、企業が直接引き起こす負の影響だけでなく、取引先やサプライチェーンを通じて関係する負の影響にも目を向けることを求めます。たとえば、海外工場での強制労働、下請企業での長時間労働、外国人労働者への不適切な処遇、原材料調達先での児童労働、地域住民への環境上の影響などは、企業本体から見えにくい場所で起きることがあります。
もう一つの論点は、すべての課題に同時に対応できない場合の優先順位付けです。ガイダンスは、リスクベースのデュー・ディリジェンスを重視しています。これは、企業にとって都合のよい課題から取り組むという意味ではなく、影響の深刻度や発生可能性を踏まえ、ライツホルダーにとって重大な負の影響から対応するという考え方です。
用語集でOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンスを扱う意義は、人権デュー・ディリジェンスを抽象的な理念ではなく、企業が実務で進めるプロセスとして理解できるようにする点にあります。人権方針、負の影響、サプライチェーン、ステークホルダー・エンゲージメント、是正措置、救済メカニズムは、このガイダンスとあわせて読むことで相互の関係が明確になります。