OECD多国籍企業行動指針とは

OECD多国籍企業行動指針とは、多国籍企業に対して、責任ある企業行動を自主的にとることを勧告する国際的な指針です。2023年改訂後は「OECD責任ある企業行動に関する多国籍企業行動指針」と呼ばれ、人権、労働、環境、情報開示、腐敗防止、消費者利益、科学・技術、競争、納税など、企業活動に関わる幅広い分野を対象としています。

1.OECD多国籍企業行動指針の意味

OECD多国籍企業行動指針は、経済協力開発機構(OECD)が、多国籍企業に期待される責任ある行動を整理した国際文書です。企業が国境を越えて事業を展開する中で、投資、雇用、調達、販売、技術利用、環境、税務などを通じて、人や社会に大きな影響を与えることを前提にしています。

この指針は、多国籍企業という名称を用いていますが、大企業だけを対象にしたものではありません。海外に拠点を持つ企業、海外から原材料や部品を調達する企業、海外市場で販売する企業、外国企業と取引する企業など、国境を越えた事業関係を持つ企業に広く関係します。サプライチェーンに組み込まれる中小企業にとっても、取引先から対応を求められる場面があります。

ビジネスと人権の分野では、OECD多国籍企業行動指針は、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」と並んで重要な国際基準です。人権デュー・ディリジェンス、サプライチェーン管理、苦情処理、情報開示などの考え方を理解する上で、基礎となる文書の一つです。

2.制度・法律との関係

OECD多国籍企業行動指針は、1976年に策定され、その後、世界経済や企業活動の変化に合わせて改訂されてきました。2023年改訂では、名称が「OECD責任ある企業行動に関する多国籍企業行動指針」となり、責任ある企業行動という考え方がより明確に示されました。

この指針は、条約や法律のように企業を直接拘束するものではありません。企業に罰則を科す国内法でもありません。しかし、OECD加盟国などの参加国政府が支持する国際的な勧告であり、企業行動の基準として大きな影響を持っています。

指針の特徴は、各参加国にNCP、すなわち連絡窓口を設ける仕組みがあることです。NCPは、指針の普及、照会への対応、問題提起があった場合の対話支援などを担います。日本では、外務省、厚生労働省、経済産業省が日本NCPを構成しています。

国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」が、人権を中心に国家と企業の責任を整理した文書であるのに対し、OECD多国籍企業行動指針は、人権に加えて、労働、環境、腐敗防止、消費者、技術、競争、税務などを含む、より広い責任ある企業行動の指針です。日本政府の「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」も、国連指導原則やOECD多国籍企業行動指針などを踏まえて整理されています。

3.人権上の論点

OECD多国籍企業行動指針の人権上の論点は、企業が自社の直接的な活動だけでなく、取引関係を通じて人権への負の影響に関わる可能性を認識する点にあります。企業は、自ら人権侵害を引き起こさないことに加え、取引先やサプライチェーンを通じて人権侵害を助長したり、関係したりするリスクにも対応する必要があります。

たとえば、海外の製造委託先での強制労働や児童労働、下請企業での長時間労働、外国人労働者への不適切な処遇、地域住民への環境上の影響、データ利用によるプライバシー侵害などは、企業活動と結び付いて生じることがあります。OECD多国籍企業行動指針は、こうした課題を個別企業の善意に任せるのではなく、責任ある企業行動として整理する枠組みを示しています。

2023年改訂では、気候変動、生物多様性、技術、データ、サプライチェーン下流へのデュー・ディリジェンスなど、現代的な課題への対応が強化されました。これは、人権課題が工場労働や雇用関係だけに限られず、環境、デジタル技術、消費者、投資、販売後の利用段階にまで広がっていることを示しています。

用語集でOECD多国籍企業行動指針を扱う意義は、ビジネスと人権を国連指導原則だけでなく、責任ある企業行動全体の国際基準として理解できるようにする点にあります。人権デュー・ディリジェンス、サプライチェーン、NCP、救済メカニズム、企業の情報開示などの用語は、この指針とあわせて読むことで、企業実務との関係がより明確になります。

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