ライツホルダーとは

ライツホルダーとは、人権を持つ主体、つまり権利を保障されるべき人を指す言葉です。ビジネスと人権の分野では、企業活動によって実際に、または潜在的に人権への負の影響を受ける人々を指して使われることが多く、労働者、消費者、地域住民、取引先の従業員、外国人労働者、子どもなどが含まれます。

1.ライツホルダーの意味

ライツホルダーは、英語の rights holder をカタカナにした言葉で、日本語では「権利保持者」と訳されます。人権は国家や企業が与えるものではなく、人が人であることによって持つ権利です。そのため、ライツホルダーとは、人権を持ち、その権利を尊重されるべき人を意味します。

ビジネスと人権の文脈では、ライツホルダーは、企業活動によって影響を受ける人を具体的に考えるための用語です。たとえば、工場で働く労働者、サプライチェーン上の下請企業の従業員、農産物や鉱物の生産現場で働く人、店舗やサービスを利用する消費者、事業所や工場の周辺に暮らす地域住民などが考えられます。

ライツホルダーという言葉が重要なのは、企業側の管理対象や利害関係者としてではなく、権利を持つ当事者として人を見る点にあります。企業の取組が「会社にとってのリスク管理」に偏ると、被害を受ける人の視点が弱くなることがあります。ライツホルダーという言葉は、誰のどの権利が影響を受けるのかを確認するための出発点になります。

2.制度・法律との関係

ライツホルダーは、日本の法律上の固定された用語ではありません。しかし、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」や、日本政府の「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を理解する上で重要な概念です。

国連指導原則は、国家の人権保護義務、企業の人権尊重責任、救済へのアクセスを3つの柱としています。このうち企業の人権尊重責任では、企業が自らの活動や取引関係を通じて人権への負の影響を引き起こさないこと、助長しないこと、関係する負の影響に対応することが求められます。その際に中心に置かれるべきなのが、負の影響を受けるライツホルダーです。

日本政府ガイドラインでも、企業は人権デュー・ディリジェンスを通じて、人権への負の影響を特定し、防止・軽減し、取組の実効性を評価し、説明することが求められています。その過程では、ステークホルダーとの対話が重要とされます。ステークホルダーには、取引先、労働組合、労働者代表、消費者団体、地域社会、NGOなど多様な主体が含まれますが、その中でも実際に権利への影響を受ける人々がライツホルダーです。

企業実務では、ライツホルダーを特定することが、人権リスク評価の第一歩になります。自社の事業、製品、サービス、調達、販売、物流、広告、土地利用、データ利用などを通じて、誰の権利に影響が及ぶのかを整理しなければ、人権デュー・ディリジェンスは形式的なものになりやすくなります。

3.人権上の論点

ライツホルダーの人権上の論点は、企業活動の影響を受ける人を、抽象的な「関係者」ではなく、権利を持つ当事者として扱えるかどうかにあります。企業にとっては取引先、従業員、顧客、住民という分類で見える人々も、それぞれ身体の安全、労働条件、差別されない権利、プライバシー、生活環境、意見を表明する機会などを持つ主体です。

特に注意が必要なのは、声を上げにくいライツホルダーです。外国人労働者、技能実習生、非正規労働者、下請企業の労働者、子ども、障害のある人、地域住民、先住民族、消費者の中でも弱い立場にある人などは、企業に直接意見を伝える機会が限られることがあります。相談窓口があっても、言語、雇用上の立場、報復への不安、情報不足によって利用できない場合があります。

ライツホルダーの視点を欠いた人権デュー・ディリジェンスは、企業側の書類確認や取引先アンケートだけで終わる危険があります。人権への負の影響は、実際に働き、暮らし、商品やサービスを利用する人の経験の中で表れます。そのため、企業は必要に応じて、労働者、地域住民、消費者、支援団体などとの対話を通じて、影響の実態を把握する必要があります。

用語集でライツホルダーを扱う意義は、ビジネスと人権を「企業が何をするか」だけでなく、「誰の権利が守られるべきか」から理解できるようにする点にあります。人権方針、人権デュー・ディリジェンス、苦情処理メカニズム、救済メカニズムはいずれも、ライツホルダーの権利を実際に守るための仕組みとして整理すると分かりやすくなります。

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