ディーセント・ワークとは

ディーセント・ワークとは、働く人の尊厳が守られ、公正な収入、安全な労働環境、社会的保護、働く上での権利、対話の機会が確保された「人間らしい働きがいのある仕事」を指す言葉です。ILOが提唱する考え方で、ビジネスと人権の分野では、企業活動が労働者の生活と権利にどのような影響を与えるかを考えるための基本概念です。

1.ディーセント・ワークの意味

ディーセント・ワークは、単に仕事がある状態を意味する言葉ではありません。働く機会があることに加え、その仕事が安全で、適正な収入を得られ、差別や強制のない環境で行われ、働く人の尊厳を傷つけないものであることが重要です。

仕事は、収入を得る手段であると同時に、生活の安定、社会参加、自己実現、家族の支えにも関わります。そのため、仕事があっても、極端な低賃金、長時間労働、ハラスメント、差別、危険な作業環境、社会保険からの排除、労働者が声を上げられない状態があれば、ディーセント・ワークとはいえません。

ビジネスと人権の文脈では、ディーセント・ワークは自社の正社員だけの問題ではありません。派遣労働者、パート・アルバイト、外国人労働者、技能実習生、下請企業の労働者、海外工場の労働者、フリーランスなど、企業活動を支えるさまざまな働き手に関係します。

2.制度・法律との関係

ディーセント・ワークは、国際労働機関(ILO)が重視してきた概念です。ILOは、働く人の権利、雇用、社会的保護、社会対話を柱として、すべての人が人間らしく働ける社会を目指してきました。SDGsの目標8でも、持続可能な経済成長とともに、完全かつ生産的な雇用とディーセント・ワークの実現が掲げられています。

日本国内では、ディーセント・ワークという名称の単一の法律があるわけではありません。しかし、労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、労働組合法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、労働施策総合推進法など、多くの労働関係法が、ディーセント・ワークの内容と関係しています。

企業実務では、長時間労働の是正、安全衛生の確保、ハラスメント防止、差別の禁止、公正な賃金、育児・介護との両立支援、労働者の相談窓口、労使対話などが、ディーセント・ワークと関係します。サプライチェーン上では、取引先や委託先で働く人の労働条件も確認の対象になります。

国連「ビジネスと人権に関する指導原則」や日本政府の「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」との関係では、ディーセント・ワークは、人権デュー・ディリジェンスで確認すべき労働人権リスクを考える際の基礎になります。企業は、自社や取引先の労働環境が人権への負の影響を生んでいないかを把握し、必要な予防・軽減策を講じる必要があります。

3.人権上の論点

ディーセント・ワークの人権上の論点は、働くことを、単なる労働力の提供や雇用契約の問題にとどめず、人間の尊厳と生活の基盤に関わる問題として捉える点にあります。人は、危険で不安定な環境で働かされるために存在しているのではなく、安全で公正な条件の下で働き、生活を築く権利を持っています。

特に、外国人労働者、技能実習生、非正規労働者、女性、若年者、高齢者、障害のある人、ひとり親、ケア責任を持つ人などは、労働市場の中で弱い立場に置かれやすい場合があります。低賃金、雇止め、不利益取扱い、ハラスメント、過重労働、相談窓口へのアクセスのしにくさなどが重なれば、働く権利が実質的に損なわれます。

ディーセント・ワークは、企業にとっても人権方針や人権デュー・ディリジェンスを具体化する視点になります。自社の従業員だけでなく、取引先や委託先の労働者が、強制労働、児童労働、差別、危険な労働、安全衛生上の問題にさらされていないかを確認することは、ビジネスと人権の基本的な対応です。

用語集でディーセント・ワークを扱う意義は、企業の人権尊重を、抽象的な理念ではなく、働く人の現実の労働条件として理解できるようにする点にあります。働きがいのある人間らしい仕事が保障されているかどうかは、企業活動が人権を尊重しているかを測る重要な手がかりになります。

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