ILO中核的労働基準とは、国際労働機関(ILO)が、すべての労働者にとって基本的に保障されるべき権利として整理している国際的な労働基準です。ビジネスと人権の分野では、強制労働、児童労働、差別、結社の自由、安全で健康的な労働環境などを理解するための基礎用語になります。
1.ILO中核的労働基準の意味
ILO中核的労働基準は、働く人の基本的な権利を守るための国際基準です。ILOは、労働における基本的原則及び権利として、結社の自由と団体交渉権の承認、強制労働の撤廃、児童労働の廃止、雇用及び職業における差別の撤廃、安全で健康的な労働環境を掲げています。
これらは、賃金や労働時間の細かな条件を定める以前に、働く人が人間として尊重されるための土台となる権利です。労働者が自由に団結できること、意思に反して働かされないこと、子どもが危険な労働に従事させられないこと、性別や国籍、出身、障害などによって差別されないこと、安全で健康に働ける環境があることは、労働における人権の中心にあります。
ビジネスと人権の文脈では、ILO中核的労働基準は、企業が自社やサプライチェーンの人権リスクを確認する際の重要な物差しになります。国内の正社員だけでなく、派遣労働者、外国人労働者、技能実習生、下請企業の労働者、海外工場の労働者などにも関係します。
2.制度・法律との関係
ILOは、労働条件や労働者の権利に関する国際基準を定める国連の専門機関です。ILO中核的労働基準は、ILOの条約や宣言を通じて整理されてきました。1998年の「労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言」では、加盟国が、関連条約を批准しているかどうかにかかわらず、基本的原則と権利を尊重し、促進し、実現する義務を負うことが確認されました。
当初、基本的原則は4分野でした。すなわち、結社の自由及び団体交渉権の実効的な承認、強制労働の撤廃、児童労働の廃止、雇用及び職業における差別の撤廃です。その後、2022年に「安全で健康的な労働環境」が加えられ、現在は5分野で整理されています。これに対応して、ILO基本条約も10条約とされています。
日本国内では、労働基準法、労働安全衛生法、男女雇用機会均等法、労働組合法、職業安定法、最低賃金法、児童福祉法、出入国管理制度など、複数の法律がこれらのテーマに関係します。ただし、ILO中核的労働基準は国内法の条文そのものではなく、国内法や企業実務を国際的な労働人権基準から見るための枠組みです。
企業にとっては、人権方針や人権デュー・ディリジェンスを策定・実施する際に、ILO中核的労働基準を参照することが重要です。サプライチェーン上で強制労働、児童労働、差別、団結権の侵害、安全衛生上の危険がないかを確認し、問題があれば是正や救済につなげる必要があります。
3.人権上の論点
ILO中核的労働基準の人権上の論点は、労働を単なる雇用契約や経済活動としてではなく、人間の尊厳に関わる問題として捉える点にあります。働く人は、企業の生産活動を支える労働力である前に、自由、平等、安全、健康を保障されるべき権利主体です。
ビジネスと人権の分野では、企業が直接雇用していない労働者への影響も問題になります。原材料調達先、製造委託先、物流、清掃、警備、農林水産業、建設、海外工場など、企業活動は多くの労働に支えられています。自社の社員には問題がなくても、取引先や下請先で強制労働、児童労働、差別、安全衛生上の危険があれば、企業はそのリスクを把握し、関係性に応じて対応することが求められます。
特に、外国人労働者、移住労働者、技能実習生、非正規労働者、女性、子ども、障害のある人などは、労働市場の中で弱い立場に置かれやすい場合があります。採用、賃金、配置、昇進、安全衛生、相談窓口、労働組合への参加などの場面で、権利が実質的に保障されているかを確認する必要があります。
用語集でILO中核的労働基準を扱う意義は、ビジネスと人権を「企業イメージ」や「社会貢献」の話にとどめず、働く人の基本的権利として理解できるようにする点にあります。人権デュー・ディリジェンスを行う企業は、ILO中核的労働基準を出発点に、自社とサプライチェーンの労働人権リスクを点検することが求められます。