身元調査とは、結婚、就職、取引、交際などの場面で、本人の出身地、本籍、家族関係、生活歴、思想信条などを調べる行為を指す言葉です。部落差別との関係では、特定地域の出身であるかどうかを探る目的で行われる調査が、結婚差別や就職差別につながる問題として扱われてきました。
1.身元調査の意味
身元調査は、本人の経歴や属性を調べる行為全般を指します。ただし、人権問題として扱われる身元調査は、単なる事実確認ではなく、本人の能力や人格とは関係のない情報を理由に、不利益な判断をするために行われる点に問題があります。
同和問題・部落差別との関係では、結婚相手や就職希望者が特定地域の出身であるか、本籍や家族関係にどのような背景があるかを調べる行為が問題とされてきました。本人が努力して変えることのできない出身や家族関係を理由に、結婚を反対したり、採用を避けたりすることは、個人の尊厳と機会の平等を損ないます。
現在では、戸籍や住民票の不正取得、インターネット上の地名情報の検索、興信所・探偵業者への依頼など、形を変えた身元調査が問題になることがあります。情報を集める方法が変わっても、出身地や家族関係を理由に人を選別する構造は、部落差別の中心的な論点の一つです。
2.制度・法律との関係
身元調査そのものを包括的に禁止する単一の法律があるわけではありません。しかし、個人情報保護、戸籍・住民票の交付制度、職業安定法、採用選考に関する行政指導、部落差別解消推進法など、複数の制度と関係します。
就職の場面では、応募者の本籍、家族の職業、家庭環境、生活信条など、本人の適性や能力と関係のない事項を採用判断に用いることは、公正な採用選考に反するものとして扱われます。採用選考で問うべきなのは、職務を遂行する能力や適性であり、出身地や家族関係ではありません。
戸籍や住民票については、第三者請求の制度がある一方で、不正取得や目的外利用が問題になってきました。このため、自治体では、本人以外の第三者に戸籍謄本や住民票の写しなどを交付した場合に、事前登録した本人へ通知する「本人通知制度」を設けているところがあります。
3.人権上の論点
身元調査の人権上の論点は、本人の知らないところで個人情報が集められ、その情報によって人生上の重要な選択が左右される点にあります。結婚、就職、住宅、地域生活などは、個人の生活基盤に直結します。そこで出身地や家族関係を理由に排除されれば、差別は単なる感情や偏見にとどまらず、具体的な不利益として表れます。
部落差別に関わる身元調査では、「どこの出身か」「どの地域と関係があるか」という情報が、差別的な判断材料にされる危険があります。本人がそのような調査を受けていることを知らないまま、結婚話が破談になったり、採用されなかったりする場合、被害が表面化しにくいことも特徴です。
身元調査を防ぐには、調査する側の意識だけでなく、企業、学校、自治体、家庭が、出身や家族関係を理由に人を評価しないという原則を確認する必要があります。部落差別をなくすためには、差別的な情報を集めない、使わない、広げないという実務上の対応が欠かせません。