補完的保護対象者とは、難民条約上の難民には当たらないものの、難民と同様に保護すべき外国人として、日本の出入国在留管理制度上認定される人を指します。令和5年改正入管法により創設された制度で、紛争避難民など、帰国すれば重大な危険に直面するおそれがある人を保護する仕組みです。難民認定制度と近い領域にありますが、難民条約上の「迫害理由」に当てはまるかどうかという点で違いがあります。
1.補完的保護対象者の意味
補完的保護対象者は、国際的な保護を必要とするものの、難民条約上の難民には必ずしも該当しない人を保護するための制度です。
難民条約上の難民は、人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員であること、政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがある人を中心に定義されています。これに対し、補完的保護対象者は、そのような条約上の迫害理由には当てはまらないものの、帰国すれば生命、身体、自由などに重大な危険が及ぶおそれがある人を想定しています。
たとえば、紛争により出身国で安全に生活できない人、国家による保護を受けることが難しい人、帰国すれば深刻な危険にさらされる人などが問題になります。ただし、誰でも自動的に認定されるわけではなく、個別の事情、出身国の状況、帰国した場合の危険性などが審査されます。
この制度は、難民認定制度を補う仕組みです。難民条約の枠組みだけでは十分に保護できない人を、国内法上どのように受け止めるかという課題に対応するものといえます。
2.制度・法律との関係
補完的保護対象者認定制度は、出入国管理及び難民認定法、いわゆる入管法に基づく制度です。令和5年改正入管法により創設され、令和5年12月1日から運用が始まりました。
難民認定申請を行った人については、難民に該当するかどうかだけでなく、補完的保護対象者に該当するかどうかも判断されます。つまり、難民条約上の難民としては認定されない場合でも、補完的保護対象者として保護される可能性があります。
補完的保護対象者として認定された外国人には、難民認定を受けた外国人と同様、原則として在留資格「定住者」が付与されます。在留資格が安定することは、住居、就労、医療、教育、家族生活、地域での生活再建に大きく関わります。
制度上は、難民認定制度、ノン・ルフールマン原則、退去強制手続、在留特別許可、仮放免、生活支援、定住支援などと接続します。補完的保護対象者は、単に「在留を認められた外国人」ではなく、国際的な保護を必要とする人として扱われる点が重要です。
一方で、補完的保護の範囲をどこまで広く認めるかは、運用上の大きな論点です。紛争、内戦、無差別暴力、重大な人権侵害、国家機能の低下などをどのように評価するかによって、保護される人の範囲は変わります。
3.人権上の論点
補完的保護対象者制度の中心には、難民条約上の難民に該当するかどうかだけで、人の安全を判断してよいのかという問題があります。現代の避難理由は、政治的迫害だけではありません。紛争、武力衝突、国家による保護の欠如、無差別暴力、深刻な社会不安などにより、帰国すれば生命や身体に危険が及ぶ人がいます。
人権上の重要な論点は、保護を必要とする人を危険な国へ送還しないことです。これは、ノン・ルフールマン原則とも関係します。たとえ難民条約上の五つの迫害理由に当てはまらなくても、帰国によって重大な危険が生じる場合には、送還の可否を慎重に判断する必要があります。
もう一つの論点は、制度の分かりやすさです。難民、補完的保護対象者、在留特別許可、仮放免は、それぞれ異なる制度ですが、当事者にとっては生活の安定や送還の危険に直結します。手続を理解できる言語で説明されるか、証拠資料を十分に提出できるか、通訳や支援者にアクセスできるかは、制度の実効性に関わります。
補完的保護対象者として認定された後も、課題は残ります。住居、就労、日本語学習、医療、子どもの教育、地域での孤立防止など、定住に向けた支援が必要になります。保護は、認定した時点で終わるものではありません。
この制度を理解するうえでは、「難民ではないから保護しない」という発想ではなく、難民条約の定義では拾い切れない危険をどう扱うかを見る必要があります。補完的保護対象者制度は、入管法の中に設けられた制度であると同時に、国際的な保護を必要とする人の生命、安全、生活再建に関わる人権上の仕組みです。