人権ライブラリーは、令和6年度法務省委託事業として制作された「『ビジネスと人権』ファーストステップ~中小企業向け取組事例集~」の無料配布を案内している。送料も無料で、申込みは人権ライブラリーのウェブサイトから行うことができる。同資料は、法務省人権擁護局が企画し、公益財団法人人権教育啓発推進センターが制作した冊子で、これから人権尊重の取組を始めようとする中小企業に向け、具体的な実践事例を紹介する内容となっている。
「ビジネスと人権」をめぐっては、2011年に国連で「ビジネスと人権に関する指導原則」が採択されて以降、企業には、自社だけでなく、取引先やサプライチェーンを含めた人権尊重の取組が求められるようになった。近年は、欧州を中心に人権デュー・ディリジェンスの法制化も進み、日本企業にとっても、海外取引や大企業との取引関係の中で、人権方針や労務管理、救済制度の整備を問われる場面が増えている。こうした流れは大企業だけの課題ではなく、中小企業にも及びつつある。
事例集では、企業が配慮すべき人権リスクとして、賃金の不足・未払、過剰・不当な労働時間、労働安全衛生、各種ハラスメント、外国人労働者の権利、児童労働、プライバシー、差別、サプライチェーン上の人権問題、救済へのアクセスなど、幅広い類型を整理している。これらは特別な国際問題に限られず、日々の採用、雇用管理、職場環境、顧客対応、取引先との関係の中で発生し得る。中小企業が最初に取り組むべき点として、人権方針の策定、人権リスクの把握と対処、相談・救済の仕組みづくりが示されている。
掲載事例には、経営者のリーダーシップにより人権尊重の価値観を社内で言語化する取組、従業員の声を生かした労働環境改善、ハラスメント防止を起点とする職場づくり、多様性や健康経営を経営課題として捉える取組などが含まれる。中小企業にとって、人権対応は専門部署を設けなければ始められないものではない。就業規則や相談窓口の確認、従業員との対話、外国人労働者への説明体制、育児・介護と仕事の両立支援など、既存の労務管理を人権の視点で見直すことから始められる。
人権の観点から重要なのは、企業にとってのリスク管理だけでなく、企業活動によって影響を受ける人、すなわち従業員、取引先労働者、顧客、地域住民などの立場からリスクを捉えることである。人権対応を怠れば、取引停止や評判低下といった経営上の不利益が生じる可能性もあるが、本来の目的は、働く人や関係者の尊厳、安全、公正な扱いを守ることにある。今回の事例集は、中小企業が「何から始めればよいか分からない」という段階を越え、自社の実務に即して人権尊重を進めるための入口となる資料である。


