国連が問う「住まいの権利」 住宅セーフティネット法施行1年の課題

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この記事のポイント

1.国連は2026年10月17日の「貧困撲滅のための国際デー」で、安全で安定した住まいの確保を中心テーマに掲げた。
2.日本では2026年1月の路上生活者等の調査で2,481人を確認。住居を失う危険に直面する人々の実態は、この数字だけでは把握できない。
3.改正住宅セーフティネット法の施行から1年が経過し、住宅の供給だけでなく、入居時の障壁や入居後の生活をどう支えるかが問われている。

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国連が掲げた「すべての人に安全な住まいを」

国連は2026年10月17日の「貧困撲滅のための国際デー」に際し、「すべての人に安全な住まいを(Safe Homes for All)」を2026年の重点テーマに掲げた。2026年から2028年までの共通テーマは「平和と人権のための団結(United for Peace and Human Rights)」。国連経済社会局(UN DESA)は10月14日、安全な住まいが貧困の解消に不可欠である理由を示し、住宅政策への当事者参加や公的投資の必要性を訴えた。

国連によると、世界では28億人を超える人々が何らかの不適切な住居環境に直面している。ここには、住まいを完全に失った人だけでなく、過密状態の住宅や安全性に問題のある住宅、居住の安定が確保されていない環境で生活する人々も含まれる。

アントニオ・グテーレス国連事務総長は10月17日のメッセージで、貧困が住居不安を増大させるだけでなく、高額な家賃、不安定な居住形態、ホームレス状態が人々を一層深い貧困に追い込むという相互関係を指摘した。

住まいを失えば、安定した就労や通院、子どもの通学、行政手続などに支障が生じる。逆に、生活が困窮すれば家賃の支払いが難しくなり、住居そのものを維持できなくなる。国連が示したのは、貧困と住居喪失を別々の問題として扱うことの限界である。

日本のホームレス2,481人は何を示しているのか

日本の住居問題を考えるうえで、厚生労働省が2026年4月27日に公表した「ホームレスの実態に関する全国調査(概数調査)」が一つの手掛かりとなる。

2026年1月に実施した調査で確認されたホームレスは全国で2,481人。前年の2,591人から110人減少した。都道府県別では、大阪府が803人で最多となり、東京都507人、神奈川県391人と続いた。確認された場所では道路が637人と最も多く、前年まで最多だった都市公園を上回っている。

ただし、この統計を「日本で住まいを失っている人の総数」と理解するのは正確ではない。

調査は「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」に基づき、道路、公園、河川敷、駅舎などで生活する人を自治体職員等が目視で確認する方式で実施されている。そのため、ネットカフェなどを転々とする人、知人宅に一時的に身を寄せる人、退去の危険に直面しながら住居を維持している人について、包括的に把握する仕組みではない。

つまり、2,481人という数字の減少だけでは、日本の住宅困窮が全体として改善したとは結論付けられない。路上生活に至る前の不安定な居住状態をどのように把握し、支援につなげるかが、統計上も政策上も残された課題である。

空き家900万戸でも住まいを確保できない理由

住宅の数と、住宅を必要とする人が実際に入居できるかどうかは、異なる問題である。

総務省統計局の2023年住宅・土地統計調査によると、日本の空き家は900万2,000戸に達し、空き家率は13.8%と過去最高を記録した。住宅の総数は約6,505万戸に上る。

ただし、この900万戸すべてが直ちに賃貸住宅として利用できるわけではない。空き家には賃貸用、売却用、二次的住宅、その他の空き家が含まれ、立地や建物の状態、所有者の意向も異なる。

住宅を借りる際には、家賃を支払えることに加え、保証人や家賃債務保証会社の利用、緊急連絡先の確保などが問題になる場合がある。

高齢者や障害者、低所得者などの入居をめぐっては、賃貸人が家賃滞納や孤独死、死亡後の残置物処理を懸念していることを国土交通省も制度改正の背景として挙げている。こうした懸念には現実的な管理上の問題も含まれるが、それを入居希望者だけに負担させれば、住まいを確保する機会が制限される。

空き家が存在することと、住宅に困っている人が安全で負担可能な住居を確保できることは同じではない。住宅政策では供給戸数だけでなく、入居可能性と居住の継続性を検証する必要がある。

「住まいの権利」は屋根のある場所だけを意味しない

住宅の確保を人権上の問題として扱う根拠の一つが、国際人権規約のうち、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約)第11条である。同条は、適切な住居を含む相当な生活水準についての権利を認めている。

国連の経済的、社会的及び文化的権利委員会は、一般的意見第4号で「適切な住居」の内容を具体化している。そこでは居住権原の安定、水や衛生設備などの利用、費用負担の可能性、居住性、アクセシビリティー、立地、文化的な適切性という7つの要素が示されている。

この基準に照らせば、単に寝泊まりできる建物があれば住居の権利が満たされるという考え方は成立しない。

例えば、家賃が高いために食費や医療費を削らなければならない住宅、障害のために日常生活を送ることが困難な住宅、医療機関や生活に必要なサービスへのアクセスが著しく制限される住宅では、建物が確保されていても居住環境に問題が残る。

日本国憲法第25条が保障する生存権も、住居の問題と密接に関係する。ただし、憲法第25条から個人が希望する住宅の提供を直ちに請求できるという意味ではない。日本では生活保護法や住宅セーフティネット法、生活困窮者自立支援法などの具体的な制度を通じて、生活と居住の保障が図られている。

国連の基準は、これらの制度が住宅を提供する仕組みを備えているかだけでなく、人が尊厳を保って生活できる条件を満たしているかを評価する手掛かりになる。

改正住宅セーフティネット法の施行から1年

日本では2025年10月1日、改正住宅セーフティネット法が施行された。正式名称は「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」で、低額所得者、高齢者、障害者、子育て世帯など、住宅の確保に配慮を必要とする人々の円滑な入居を支える制度である。

改正では、入居前の支援に加えて入居後の生活を支える仕組みが整備された。代表的な制度が「居住サポート住宅」の認定制度である。

居住サポート住宅は、居住支援法人などが賃貸人と連携し、安否確認や見守り、生活状況が不安定になった場合の福祉サービスへの橋渡しを行う住宅である。福祉事務所を設置する自治体による認定制度が設けられたほか、家賃債務保証業者の認定制度や、死亡後の残置物処理を支援する仕組みなども整備された。

従来の住宅セーフティネット制度が主として住宅の供給と入居の円滑化を支えてきたのに対し、今回の改正では、入居後の生活を継続するための支援を制度の中に組み込んだ点に特徴がある。

もっとも、認定制度が創設されたことと、住宅を必要とする人が実際に入居できることは別である。認定住宅が必要な地域に十分確保されているか、家賃水準が利用者の所得に見合っているか、障害などに応じた支援を受けられるかについては、実際の運用状況を確認しなければならない。

見守りは居住の安心とプライバシーを両立できるか

入居後の見守りには、孤立を防ぎ、健康状態や生活上の困難を早期に把握できるという利点がある。支援を必要とする人にとって、医療や福祉につながる契機にもなる。

しかし、支援の仕組みを整える際には、プライバシーや本人の意思をどのように保障するかという問題も生じる。

居住サポート住宅では、ICT機器などを活用した安否確認や訪問による見守りが想定されている。こうした仕組みを運用する際には、収集する情報の範囲、本人への説明、情報の管理方法、支援内容に関する意思の確認を適切に行う必要がある。

住居を確保するために、本人が望まない生活上の管理や介入を過度に受け入れなければならない仕組みになっていないか。支援を提供する側が本人の生活上の選択を尊重できているか。これらは制度の実効性を判断する際の検証事項となる。

居住支援は、住宅を確保することだけを目的とするものではない。住み慣れた地域で、本人が可能な限り自らの生活を選択し、継続できることも含めて評価すべきである。

住居を失う前に利用できる支援制度

日本には、住居を失う危険に直面した段階で利用できる制度もある。

生活困窮者自立支援法に基づく「住居確保給付金」は、離職や収入減少などで家賃の支払いが困難になった人に、一定の要件のもとで家賃相当額を支給する制度である。

2025年4月からは制度が拡充され、収入が大きく減少し、家計改善のために家賃の安い住宅へ転居する必要がある人について、一定の要件を満たせば転居費用も支給されるようになった。具体的な利用要件や支給上限は自治体などによって異なる。

生活保護も、住居を失った人が利用できる制度の一つである。厚生労働省は、住む場所がない場合や必要な書類がそろっていない場合でも生活保護を申請できると明示している。施設への入所に同意することも申請の条件ではない。

こうした制度については、利用資格のある人が制度を知らないまま困窮を深めることや、申請手続の負担によって支援に到達できないことを防ぐ必要がある。家賃滞納から退去に至る前の相談支援と、既に住居を失った人に対する緊急的な支援を区別し、状況に応じて接続することが実務上の課題となる。

住宅の供給数だけでは測れない制度の成果

2026年の国連「貧困撲滅のための国際デー」は、住居問題を住宅市場や福祉制度だけで扱うのではなく、人が尊厳を持って生活するための権利として検証する機会となった。

日本で改正住宅セーフティネット法の成果を評価する際にも、認定住宅の戸数や居住支援法人の数だけで判断することには限界がある。

住宅を必要とする人のうち、実際に何人が入居に至ったのか。入居できなかった場合には、家賃、保証、立地、支援体制のどこに障壁があったのか。入居後も安定して生活を続けられているのか。これらを把握しなければ、制度が住宅困窮の解消にどの程度寄与したのかを十分に評価できない。

制度を設計する際に住宅困窮の経験を持つ人々の意見を反映することも、2026年の国連テーマが示す課題の一つである。支援を受ける人を単なる政策の対象として扱うのではなく、制度の改善に参加する主体として捉える考え方が示されている。

施行2年目に入った住宅セーフティネット法について、国土交通省と厚生労働省、各自治体が住宅供給と福祉支援の連携をどこまで具体化し、入居時の障壁や居住継続の実態をどのように把握していくか。国連が提起した「すべての人に安全な住まいを」という課題を、日本の住宅政策に照らして検証するうえで、その運用実績が判断材料となる。

出典

出典 国際連合「International Day for the Eradication of Poverty 2026」 URL:https://www.un.org/en/events/povertyday/

出典 国連経済社会局「3 reasons safe homes matter in the fight against poverty」(2026年10月14日) URL:https://www.un.org/en/desa/3-reasons-safe-homes-matter-in-the-fight-against-poverty

出典 国際連合「Secretary-General’s message on the International Day for the Eradication of Poverty, 2026」(2026年10月17日) URL:https://bangladesh.un.org/en/324335-secretary-general%E2%80%99s-message-international-day-eradication-poverty-2026

出典 国連人権高等弁務官事務所「The human right to adequate housing」 URL:https://cambodia.ohchr.org/en/economic-social-rights/human-right-adequate-housing

出典 厚生労働省「ホームレスの実態に関する全国調査(概数調査)結果について」(2026年4月27日) URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_72779.html

出典 総務省統計局「2023年住宅・土地統計調査」 URL:https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2023/tyousake.htm

出典 国土交通省「住宅セーフティネット法等の一部を改正する法律について」 URL:https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk7_000054.html

出典 国土交通省「住宅セーフティネット制度」 URL:https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000055.html

出典 厚生労働省「厚生労働省関係の主な制度変更(令和7年4月)について」 URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_51380.html

出典 厚生労働省「生活保護を申請したい方へ」 URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/seikatsuhogopage.html

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人権ニュース編集部

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