「聞こえる前提」を問い直すDeaf VR、全国8都市へ支援募集

この記事のポイント

1.ろう者・難聴者の聞こえ方を疑似体験する「Deaf VR」が、全国8都市での体験会に向けて支援募集を開始した。
2.360度映像と空間音響を使い、音量の低下だけでは説明できない言葉の欠落や周囲の音との混在を表現する。
3.疑似体験を「理解したつもり」で終わらせず、手話、字幕、筆談、要約筆記などの情報保障へつなぐ設計が課題となる。

「聞こえない・聞こえにくい世界」を360°映像と空間音響で体験する「Deaf VR」

株式会社シー・エヌ・エス(東京都目黒区)は2026年7月27日、ろう者・難聴者が日常で経験する「聞こえない・聞こえにくい世界」を360度映像と空間音響で疑似体験する「Deaf VR」の全国展開に向け、クラウドファンディングを開始した。募集は9月24日午後11時までで、目標額は330万円。札幌、仙台、名古屋、大阪、広島、松山、福岡、那覇の8都市で、募集終了後おおむね1年以内の体験会開催を計画する。

「Deaf VR」は、歩道のない道路を歩く場面、家族との食事、カフェで店員から質問を受ける場面などを収録し、単に音量を下げるのではなく、言葉の一部が抜け落ちる感覚や、周囲の音に声が紛れる状況を映像と音で表現する。プロジェクト担当の牧村正嗣氏が、先天性難聴の娘との生活や、ろう学校、手話サークルでの経験を起点に2018年から開発を進めた。首都圏のイベント、企業研修、学校、自治体の催しなどで、これまで約2,800人が体験したという。

日本補聴器工業会の「JapanTrak 2025」では、自己申告による日本の難聴者率は全体で11.0%だった。年齢や聴力、使用する言語、補聴器・人工内耳の利用状況、生活環境によって、聞こえ方と必要な支援は異なる。牧村氏もプロジェクトページで、VRが聞こえない・聞こえにくい世界を完全に再現するものではなく、「分かったつもり」になるための装置でもないと説明している。

この点は、障害理解の体験型研修を考えるうえで欠かせない。疑似体験は、聞こえることを前提に作られた会議、接客、校内放送などの仕組みに気づく入口にはなる。ただし、体験者が感じた不便さを当事者一般の経験として固定化すれば、障害の多様性を見落とす。体験後にろう者・難聴者の声を聴き、手話、字幕、筆談、要約筆記、補聴援助システム、事前資料の提供、複数人が同時に話さない進行など、場面ごとの情報保障へ結びつける必要がある。内閣府も聴覚・言語障害への配慮例として、視覚的な意思疎通手段や字幕、手話、発言が交錯しない進行を示している。

2024年4月から、障害者差別解消法に基づき、企業や店舗などの事業者が顧客や利用者に提供する合理的配慮は法的義務となった。雇用分野では、障害者雇用促進法により2016年4月から合理的配慮が義務化されている。Deaf VRの体験自体が合理的配慮になるわけではないが、学校や職場、店舗が「聞こえる前提」を点検し、当事者との対話を通じて具体的な環境整備へ進む契機にはなり得る。株式会社シー・エヌ・エスは全国8都市の体験会に加え、体験後の対話やワークショップも展開する方針で、VRから情報保障へどう接続するかが同プロジェクトの実質を左右する。

出典

株式会社シー・エヌ・エス「ろう・難聴者が感じる『聞こえない・聞こえにくい世界』を360°映像と空間音響で体験する『Deaf VR』」
URL:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000013.000023822.html

参考資料 READYFOR「『聞こえる前提』を問い直したい!Deaf VR全国展開プロジェクト」
URL:https://readyfor.jp/projects/DeafVR

人権ニュース編集部

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