1.沖縄市が9月7日の「沖縄市民平和の日」に記念行事を開き、対馬丸生存者の照屋恒氏による証言や創作音楽劇などを実施する。
2.9月7日は1945年に嘉手納で南西諸島の日本軍が降伏文書に署名した日で、沖縄市は1993年に全国初となる市独自の「市民平和の日」を条例で制定した。
3.証言、演劇、原爆被害のVR体験という異なる手法を組み合わせる中、歴史的事実と体験型表現をどう結び、次世代へ伝えるかも検証点となる。

沖縄市は9月7日午後6時から、沖縄市民小劇場あしびなーで2026年度「沖縄市民平和の日」記念行事を開催する。ガレッジセールが司会を務め、1944年に4歳で学童疎開船「対馬丸」に乗船していた照屋恒氏とのトークセッション、沖縄東中学校吹奏楽部のミニライブ、なかのまちヤカラーズ、ありんくりん、オリオンリーグらが出演する創作音楽劇「紡 -TSUMUGU-」を実施する。会場には原爆被害を疑似体験するVR体験ブースも設ける予定で、入場は無料だが事前申し込みが必要となる。
9月7日を選ぶ理由は、沖縄県全体の「慰霊の日」とは異なる歴史にある。沖縄県の慰霊の日は6月23日で、日本軍の組織的戦闘が終結した時期を基礎として戦没者を追悼する。一方、1945年9月7日には嘉手納の米第10軍司令部で、南西諸島の日本軍を代表する納見敏郎中将らが降伏文書に署名し、米軍側のジョセフ・スティルウェル大将がこれを受諾した。沖縄県公文書館は、この調印によって沖縄戦が正式に終結したと説明している。沖縄市はこの日を基礎に、1993年、全国で初めて市独自の「市民平和の日」を条例で制定し、8月1日から9月7日までを平和月間としている。
今年の企画で歴史的な重みを持つのが、照屋氏による対馬丸の証言である。対馬丸は1944年8月22日、鹿児島県悪石島沖を航行中に米潜水艦の魚雷攻撃を受けて沈没した。沖縄県公文書館によると、乗船していた1,788人のうち、疎開学童784人を含む1,484人の死亡が確認されている。生存者には沈没の事実を話さないよう命じられ、遺族にも十分な情報が伝えられなかった。今回4歳当時の乗船経験を本人が語ることは、戦時下の被害だけでなく、その後長く語ることを制限された記憶まで次世代へ伝える機会となる。
同じ会場で、中学生による演奏、創作音楽劇、VRを組み合わせる点にも今回の特徴がある。沖縄市はこれまでにも音楽、演劇、映画関係者との対話など多様な方法で市民平和の日を伝えてきた。証言を直接聞ける世代が限られていく中、芸術やデジタル技術を入り口として歴史に接する仕組みには、従来の講演会とは異なる層へ届く可能性がある。2025年の戦後80周年行事でも、沖縄市は創作音楽劇などを取り入れており、2026年もその手法を継続している。
ただし、VRについて沖縄市の公表ページから確認できるのは「原爆被害を疑似体験できるVR体験ブース」を設けるという点までで、制作主体、対象年齢、具体的な内容、体験後の解説方法などは示されていない。体験型の平和学習では、映像の強さそのものではなく、何が史実で何が再現表現なのかを理解し、証言や公文書などの記録へ戻れる構成になっているかも確認材料となる。照屋恒氏の実体験、沖縄県公文書館に残る記録、創作音楽劇、VRを沖縄市が9月7日の歴史とどのように結び付けるかによって、「沖縄市民平和の日」の記憶継承事業としての内容が具体化する。
沖縄市「令和8年度(2026)沖縄市民平和の日記念行事について」
URL:https://www.city.okinawa.okinawa.jp/k015/event/p0007.html
沖縄市「市民平和の日」
URL:https://www.city.okinawa.okinawa.jp/k015/shiseijouhou/gaiyou/hewajigyou/heiwanohi/2519.html
沖縄県公文書館「1945年9月7日 沖縄での降伏調印式」
URL:https://www.archives.pref.okinawa.jp/news/that_day/4741
沖縄県公文書館「1944年8月22日 学童疎開船『対馬丸』が撃沈される」
URL:https://www.archives.pref.okinawa.jp/news/that_day/4745

