1.文部科学省の調査では、47都道府県教育委員会のすべてが、教職員と児童生徒との私的なSNS連絡の禁止、相談窓口の設置・周知、教職員研修、密室回避などの措置を実施していた。
2.教職員や児童生徒への定期的なアンケート等を実施していたのは43都道府県、私的端末による撮影の禁止や画像データの管理ルールを明確にしていたのは41都道府県だった。
3.2026年4月改訂の国の基本指針は、疑いを把握した学校による設置者への即時通報、専門家を交えた調査、端末・画像管理、施設点検、原則懲戒免職などを改めて明記した。
文部科学省が2025年12月に公表した調査によると、47都道府県教育委員会のすべてが、SNS等を使って教職員が児童生徒と私的なやり取りをしてはならないことを、指針、通知、研修などで明確にしていた。業務上の連絡にSNS等を使用する場合についても、適切な連絡方法や管理職との情報共有の取扱いを全都道府県が定めていた。
相談窓口の設置・周知、教育職員等への研修、執務環境の見直しによる密室状態の回避や組織的な教育指導体制についても、47都道府県すべてが実施していると回答した。国の調査上、私的SNSの禁止や相談体制など、基本的な措置は全国で共通化している。
差があったのは、被害の早期発見と端末・画像データの管理である。教職員や児童生徒を対象とするアンケート等を定期的に実施していたのは43都道府県で、全体の91.5%だった。教職員個人のスマートフォン等で児童生徒を撮影しないことや、学校所有端末で撮影した画像を管理職の許可なく校外へ持ち出さないことなど、端末利用とデータ管理のルールを明確にしていたのは41都道府県、87.2%だった。
ただし、文部科学省が公開した全国集計には、未実施と回答した都道府県名は掲載されていない。このため、本記事では「定期調査を実施していない4県」「端末管理ルールを明確化していない6県」を個別に特定しない。各教育委員会が公表する資料から一部の措置を確認できた場合でも、国の調査への回答内容と同一であるとは限らないからである。
調査対象と比較方法
本記事は、文部科学省の「令和6年度公立学校教職員の人事行政状況調査」と、2025年10月1日時点の「児童生徒性暴力等を予防するための取組状況」を全国比較の基礎資料とした。
都道府県の事例については、教育委員会が公式サイトで公表している総合対策、研修資料、検証報告書、相談窓口、通知を確認した。ただし、47都道府県の個別施策を、公開資料だけから同じ基準で網羅的に採点することはしていない。
教育委員会の内部規程、校内限定資料、教職員向けイントラネットだけで運用されている措置も考えられる。公式サイトで確認できないことは、「その措置を実施していない」ことを意味しない。
調査基準日:2026年6月26日
全国集計の基準日:2025年10月1日
調査対象:47都道府県教育委員会
対象外:指定都市、市区町村教育委員会、国立学校、私立学校を独立した比較対象とする調査
47都道府県の実施状況
| 防止措置 | 実施都道府県 | 割合 |
|---|---|---|
| 私的なSNS等のやり取りを禁止することの明確化 | 47 | 100.0% |
| 市区町村教育委員会にも私的SNS禁止の明確化を促す | 47 | 100.0% |
| 業務上必要なSNS連絡の方法と管理職への情報共有を明確化 | 47 | 100.0% |
| 教職員・児童生徒等への定期的なアンケート等 | 43 | 91.5% |
| 市区町村教育委員会にも実態把握を促す | 43 | 91.5% |
| 相談窓口の設置と周知 | 47 | 100.0% |
| 市区町村教育委員会にも相談窓口の設置・周知を促す | 47 | 100.0% |
| 教育職員等への研修 | 47 | 100.0% |
| 密室回避や組織的な指導体制に関する指導 | 47 | 100.0% |
| 私的端末による撮影禁止、画像・データ管理ルールの明確化 | 41 | 87.2% |
この比較は、措置の有無を示すものであり、実施内容の質や学校現場への定着度を示すものではない。例えば、年1回の資料配布と、複数回の事例検討、理解度確認、欠席者への補講を含む研修は、国の集計ではいずれも「研修を実施」に含まれ得る。
相談窓口についても、設置しているという回答だけでは、児童生徒が学校を通さずに相談できるか、電話以外の手段を利用できるか、相談後に誰が初動を担うかまでは分からない。全国比較の次の段階では、制度の有無から運用内容へ調査対象を広げる必要がある。
児童生徒性暴力等による懲戒処分は134人
文部科学省の令和6年度調査では、性犯罪・性暴力等により懲戒処分または訓告等を受けた教育職員は281人だった。この「性犯罪・性暴力等」には、児童生徒以外への行為やセクシュアルハラスメントも含まれる。
281人のうち、法律上の「児童生徒性暴力等」により懲戒処分を受けた教育職員は134人だった。前年度の157人から23人減少したが、134人のうち132人が免職、2人が停職となっている。
行為の態様では、性交等が38人、盗撮・のぞきが34人、身体への接触が31人、接吻が18人だった。このほか、メールやインターネット利用を含む文書・画像等による性的な言動、裸や下着姿の撮影、会話等における性的ないやがらせなどが集計されている。
人数の減少だけで、防止策が十分に機能したとは判断できない。懲戒処分に至った人数は、発生件数だけでなく、被害申告、学校や教育委員会による把握、調査、処分判断にも左右されるためである。
「児童生徒性暴力等」は刑事事件だけを指さない
教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律は、学校に在籍する幼児、児童、生徒のほか、学校に在籍していない18歳未満の者も「児童生徒等」に含めている。
対象となる行為には、性交等、わいせつ行為、性的姿態の撮影、盗撮、性的な部位への接触、児童生徒の心身に有害な影響を与える性的な言動などが含まれる。SNSや電子メールを使った言動も対象になり得る。
被害を受けた児童生徒が同意したと教職員が主張しても、児童生徒性暴力等への該当性は否定されない。暴行や脅迫の有無も問われず、刑事罰が科されなかった行為であっても、同法上の児童生徒性暴力等に該当する場合がある。
教育職員は、成績評価、進路、部活動、生活指導などを通じて児童生徒に影響を及ぼす立場にある。表面的な同意だけで行為の適法性を判断しない制度は、この権限関係を前提としている。
2026年4月改訂指針、個人の倫理から環境・組織対策へ
文部科学省は2026年4月24日、同法に基づく基本指針を改訂した。改訂指針は、教職員本人に規範意識を持たせるだけでなく、不適切な行為が生じやすい環境や組織体制に潜むリスクを取り除く必要があるとした。
具体的には、児童生徒との私的なSNS等によるやり取りを禁止し、業務上必要な連絡についても、連絡方法と管理職への情報共有を明確にする。私的端末で児童生徒を撮影しないこと、学校所有端末の画像を許可なく持ち出さないこと、画像データの保存・管理方法を定めることも含まれる。
盗撮対策では、スマートフォン等の取扱いだけでなく、教室、トイレ、更衣室、部室など、撮影機器を設置し得る場所の点検も必要となる。端末を禁止するだけでは、小型機器による撮影や、学校端末から私的機器へのデータ移動を防げないためである。
個別指導や教育相談では、外部から確認できない部屋で教職員と児童生徒が二人きりになる状態を減らす。扉を開ける、窓のある部屋を使う、他の教職員に対応を伝えるなどの措置が考えられる。
ただし、「一対一にならない」という規則を機械的に適用すれば、家庭問題、いじめ、性被害、性的指向・性自認などを児童生徒が相談しにくくなる場合がある。相談内容の秘密を守りながら、担当教職員一人だけに情報と判断を集中させない手続が必要となる。
発覚の43.3%は学校関係者への相談
令和6年度に児童生徒性暴力等で懲戒処分を受けた134人の事案について、文部科学省は発覚の要因も集計している。
被害を受けた児童生徒または保護者から、管理職、スクールカウンセラー、その他の教職員への相談によって発覚した事案は、合計58件、43.3%だった。警察からの連絡は36件、26.9%である。
被害者または保護者から教育委員会等の相談窓口への相談は5件、3.7%、学校や教育委員会が実施したアンケート調査等による発覚は1件、0.8%だった。
この数字だけで、「アンケートや相談窓口は効果がない」とは判断できない。集計対象は懲戒処分を受けた134人の事案に限られ、相談窓口を通じて早期に支援へつながったものの、懲戒処分の集計対象にならなかった相談は含まれていないからである。
それでも、児童生徒が日常的に接する教職員へ相談した事案が多いことは、最初に相談を受ける可能性のある教職員全体が、受け止め方と報告手順を理解する必要を示している。担任や養護教諭が一人で判断せず、被害を訴えた児童生徒の安全を確保しながら、組織的な対応へつなぐ体制が欠かせない。
学校は調査終了を待たず設置者へ通報
学校が、在籍する児童生徒が教育職員等から性暴力等を受けたと思われる事案を把握した場合、学校は直ちに学校設置者へ通報しなければならない。
学校内で事実関係をすべて確定してから教育委員会等へ報告する制度ではない。2026年改訂指針は、事実の有無を確認する措置の結果を待たず、学校管理職が直ちに学校設置者へ通報する必要があると明記した。
犯罪の疑いがある場合には、警察への通報も必要となる。学校による事実確認の完了を待たずに警察へ通報できることも指針に記されている。
学校設置者による調査は、医療、心理、福祉、法律の専門家の協力を得て行う。調査の公正性・中立性を確保するため、事案の関係者と直接の人間関係や利害関係を持たない専門家の参加も検討対象となる。
児童生徒からの聴き取りでは、同じ説明を何度もさせないこと、誘導や暗示を避けること、年齢や障害などの特性に配慮することが必要になる。指針は、児童生徒の負担を軽減するため、検察、警察、児童相談所が連携する代表者聴取の方法も参考になるとしている。
全都道府県の処分基準に原則免職を反映
2026年改訂指針によると、すべての都道府県・指定都市教育委員会の懲戒処分基準には、児童生徒性暴力等を原則として懲戒免職とする趣旨の規定が整備されている。
令和6年度に児童生徒性暴力等で懲戒処分を受けた134人のうち、132人が免職となったことも、この原則を反映した結果とみられる。
処分前に依願退職を認め、懲戒処分を行わないまま事案を処理することは認められない。基本指針は、児童生徒性暴力等があったにもかかわらず、依願退職等により水面下で穏便に済ませてはならないと記載している。
学校管理職や教育委員会が、疑いを把握しながら放置したり、隠蔽したりした場合も、法上の義務違反や信用失墜行為として懲戒処分の対象となり得る。性暴力を行った教職員本人だけでなく、報告を止めた管理職や組織の対応も検証対象になる。
採用時データベース、約7割の任命権者等に不備
特定免許状失効者管理システムは、児童生徒性暴力等を理由として教員免許状が失効し、または取り上げられた者の情報を記録するデータベースである。2023年4月1日に稼働し、教育職員等を任命・雇用する際の利用が法律で義務付けられている。
文部科学省が2025年に行った調査では、約7割の任命権者等が、データベースを適切に利用できていなかった。未登録のほか、登録済みであっても採用時の検索を適切に実施していない事例が確認された。
この「約7割」は、47都道府県教育委員会のうち約7割という意味ではない。調査対象には、都道府県・指定都市教育委員会に加え、私立学校、認定こども園、国立大学法人附属学校などの任命・雇用主体が含まれる。
データベースの対象は、児童生徒性暴力等を理由に免許状が失効・取上げとなった者である。すべての性犯罪歴や懲戒歴を網羅する制度ではない。2026年12月25日に施行されるこども性暴力防止法の性犯罪歴確認制度とも、対象情報と手続が異なる。
原典で確認できた自治体の取組例
都道府県ごとの取組は、文書の形式と公開方法が異なる。以下は優劣を付けるものではなく、2026年6月26日時点で公式資料を確認できた例である。
| 自治体 | 公式資料で確認した内容 |
| 北海道教育委員会 | 「教職員不祥事根絶ポータルサイト」を設置。児童生徒性暴力、盗撮、飲酒運転、金銭事故について、道内の処分事例、未然防止の留意事項、研修用の問いをまとめた資料を公開している。 |
| 島根県教育委員会 | 2025年12月改訂の総合対策に、研修、SNS・電子機器管理、密室回避、施設管理、アンケート、相談・通報窓口、採用時確認、警察連携、懲戒処分を一体的に掲載している。 |
| 山口県教育委員会 | 外部有識者による検証委員会を設置し、2026年1月に提言を公表。県内の分析対象事案では、高校生が被害者となった児童生徒性暴力等が7割以上、私的なSNS連絡が行われていた事案が半数以上だった。 |
| 福岡県教育委員会 | 相談・通報窓口、性暴力発覚時の対応、研修資料などを公式ページに集約。2026年3月の不祥事防止通知には、児童生徒性暴力等の法的理解や教職員自身の行動を確認するチェック項目を盛り込んでいる。 |
北海道のポータルは、教職員向け資料と処分事例を同じ場所で閲覧できるようにしている。教職員だけでなく、保護者や一般の閲覧者が教育委員会の対策を確認できる点が特徴となる。
島根県の総合対策は、未然防止、早期発見、早期対処、厳正な処分を一つの文書でつないでいる。研修や服務規律だけでなく、採用時確認、相談窓口、警察との連携までを同じ体系に入れている。
山口県は、県内で発生した事案を分析し、児童生徒性暴力等の半数以上に私的なSNS連絡が関係していたと整理した。全国一律の禁止規定だけでなく、地域で起きた事案の傾向を研修や制度改定へ反映する手法である。
福岡県教育委員会は、相談先と発覚後の対応資料を公式サイトに掲載している。被害を把握した後に、学校内で誰が何を行うのかを確認できる資料を公開することは、教職員だけでなく、児童生徒や保護者が制度へアクセスする上でも意味を持つ。
児童生徒に「拒否と相談」の責任を負わせない
児童生徒性暴力等の防止を、「嫌なら断る」「被害を受けたら相談する」という児童生徒側の行動だけに委ねてはならない。
教育職員は、評価、進路、部活動、学校生活に関する権限を持つ。児童生徒が教職員との関係悪化を恐れたり、行為が不適切だと認識できなかったりする場合もある。被害を自ら申告できることを制度の前提にすると、被害が表面化しないまま続く可能性がある。
学校設置者と教育委員会が担うのは、私的な接触を生じにくくすること、複数の大人が状況を把握すること、学校を通さず利用できる相談先を設けること、申出後に児童生徒を加害が疑われる教職員から離すことである。
相談や調査では、被害児童生徒のプライバシー保護と、事実関係の公正な確認を両立させなければならない。処分を公表する際にも、学校名、学年、部活動、発生場所などの組合せによって被害児童生徒が推測されないようにする必要がある。
次の比較対象は「実施したか」から「機能したか」へ
全国調査では、私的SNS禁止、相談窓口、研修、密室回避について、47都道府県すべてが実施済みと回答した。ただし、措置を設けたことと、児童生徒が実際に保護されたことは同じではない。
次回以降の全国比較では、研修の受講率、アンケートの実施頻度と回収方法、教育委員会へ直接提出できる仕組み、相談から初動までの時間、専門家を交えた調査件数、被害児童生徒への継続支援、データベース検索の実施率などを確認する必要がある。
文部科学省の2026年4月改訂指針は、端末・画像管理、施設点検、即時通報、専門家による調査を明記した。各都道府県教育委員会がこの改訂内容を県立学校の規程や市町村教育委員会への通知へどう反映するか、2025年調査で43県だった定期調査と、41県だった端末・画像管理が次回調査でどう変化するかを追跡する。
文部科学省、北海道教育委員会、島根県教育委員会、山口県教育委員会、福岡県教育委員会
URL:https://www.mext.go.jp/content/20251217-mxt_syoto01-000046407_39.pdf
URL:https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/jinji/1411820_00009.htm
URL:https://www.mext.go.jp/content/20260424-mxt_kyoikujinzai02-000011979_03.pdf
URL:https://www.mext.go.jp/content/20251223-mxt_kyoikujinzai01-000011979_1.pdf
URL:https://www.dokyoi.pref.hokkaido.lg.jp/hk/sum/109568.html
URL:https://www.pref.shimane.lg.jp/gakkokikaku/seibouryokukonzetu/
URL:https://www.pref.shimane.lg.jp/gakkokikaku/seibouryokukonzetu/index.data/R7.12kaitei_sougoutaisaku.pdf
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