1.長野県は10月29日、在職中の盗撮行為で有罪となった61歳の元部長級職員に退職手当を全額支給しない処分を行った。
2.元職員は2025年3月に停職6か月の懲戒処分を受けて退職し、2026年10月に懲役1年、執行猶予4年の刑に処せられた。
3.長野県職員退職手当条例に基づく支給制限は刑事罰とは異なる制度であり、盗撮被害者の性的プライバシーと公務員の責任を考える事例となる。

長野県は2026年10月29日、在職中に盗撮行為を行い、有罪判決を受けた男性元職員に対し、退職手当を全額不支給とする処分を行った。対象者は退職時に本庁部長級だった61歳の元職員。2025年3月21日から退職手当の支払いを差し止めていたが、2026年10月に懲役1年、執行猶予4年の刑に処せられたことを受け、長野県職員退職手当条例第14条第1項に基づく支給制限処分を決定した。県は10月30日、処分の内容と経過を公表した。
懲戒処分から退職手当不支給までの経過
長野県によると、元職員は私用のスマートフォンを使い、多数の女性のスカート内を撮影するなどの盗撮行為を行った。
県は2025年3月17日に停職6か月の懲戒処分を実施した。元職員は同月21日に退職し、県は同日付で退職手当の支払差止処分を行った。
その後、2026年10月に有罪判決を受け、県は退職手当の全部を不支給とする処分を決定した。公表資料には、具体的な退職手当額や適用された刑事罰の罪名は記載されていない。
ここで区別したいのが、懲戒処分、支払差止処分、支給制限処分の違いである。
懲戒処分は、職員の服務規律違反について責任を問う措置である。退職手当の支払差止処分は、一定の事由がある場合に支払いを停止するもので、直ちに退職手当を失うことを意味しない。
これに対し、支給制限処分は、法令や条例に基づき退職手当の全部または一部を支給しないと決定する措置である。長野県は今回、刑事裁判の結果を受け、支払いを差し止めていた退職手当の全部を不支給とした。
執行猶予付き判決でも支給制限の対象に
退職手当には、勤続に対する報償、退職後の生活保障、賃金の後払いなど、複数の性格がある。そのため、退職手当を支給しないという判断は、刑事裁判とは別の行政上の手続として扱われる。
今回の処分の根拠となった長野県職員退職手当条例第14条第1項は、一定の要件に該当する退職者について、退職手当の支給を制限する規定である。
元職員に執行猶予が付されたことは、直ちに退職手当の支給制限を排除する理由にはならない。執行猶予は、一定の条件の下で刑の執行を猶予する制度であり、有罪判決そのものがなくなることを意味しないためである。
今回の長野県の措置は、刑事裁判による刑罰と、在職中の行為に対する行政上の責任が、別の制度によって判断されることを示している。
盗撮によって侵害される性的プライバシー
盗撮は、本人の意思に反して身体や性的な姿態を撮影する行為であり、性的プライバシーや人格の尊厳に関わる問題である。
被害者が撮影されたことをその場で認識していなかったとしても、そのことによって権利侵害が軽くなるわけではない。撮影された画像が保存、複製、共有される可能性があることも、デジタル機器を用いた性暴力に固有の問題となる。
2023年7月には、性的な姿態を正当な理由なく撮影する行為などを処罰する「性的姿態撮影等処罰法」が施行された。同法は、これまで都道府県の迷惑防止条例などによって規制されてきた盗撮行為について、全国共通の刑事法による対応を整備したものである。
ただし、長野県の今回の公表資料では、元職員の有罪判決に適用された罪名や条文は明示されていない。そのため、この法律によって有罪となったと断定することはできない。
被害者の権利と行政の説明責任
盗撮事案では、加害者に対する処分だけでなく、被害者の安全、プライバシー、画像の取扱いなども独立した課題となる。
例えば、被害の事実を公表する際に被害者が特定される情報を必要以上に広めれば、新たな心理的負担やプライバシー侵害を生じさせるおそれがある。
今回の長野県の公表は、元職員に対する退職手当の支給制限を知らせるものであり、被害者への支援内容を説明した資料ではない。処分の公表から、被害者への支援の有無や内容を推測することは適切ではない。
長野県は、2025年3月の懲戒処分と退職手当の支払差止処分を経て、2026年10月29日に全額不支給を決定した。公表資料は、公務員の在職中の非違行為について、退職後も条例に基づく責任が問われる具体的な経過を示している。
長野県「盗撮行為を行った元職員に退職手当の支給制限処分を行いました」
URL:https://www.pref.nagano.lg.jp/jinji/happyou/261030press.html
