47都道府県の人権施策計画を比較 改定時期・対象・検証方法に地域差

この記事のポイント

1 47都道府県では、「基本計画」「基本方針」「推進指針」「行動計画」など、異なる名称と構成の文書に基づいて人権施策が進められている。
2 人権教育・啓発推進法は地方公共団体に施策の策定・実施責務を定めるが、国と同じ名称・形式の基本計画を都道府県に直接義務付けてはいない。
3 自治体の施策を比較するには、人権課題の掲載数だけでなく、実施計画、数値目標、年次報告、相談・支援制度、策定過程への当事者参加を分けて確認する必要がある。

人権教育・啓発基本計画

政府は2025年6月6日、「人権教育・啓発に関する基本計画(第二次)」を閣議決定した。2002年の第一次基本計画から23年ぶりとなる全面改定で、「ビジネスと人権」の追加、インターネット上の人権侵害の横断的課題化、ヘイトスピーチと性的マイノリティの独立項目化などが行われた。

都道府県でも2024年以降、基本計画や基本方針の策定・改定が続く。ただし、文書の名称、対象範囲、計画期間、進行管理の方法は統一されていない。人権教育・啓発を中心とする計画、相談・支援を含む人権施策全般の基本方針、条例に基づく推進計画、具体的な事業を記載する行動計画などが併存している。

人権ニュースは、2026年6月23日を基準日として、47都道府県が公式サイトで公開している総合的な人権施策文書を調べた。計画名と改定時期を並べるだけでなく、どのような制度構造を採用しているか、施策をどう検証するか、相談・支援をどこまで扱っているかを整理した。

調査対象と比較方法

本調査では、次のいずれかに該当する文書を「総合的人権施策文書」として扱った。

・人権施策全般を扱う基本計画、基本方針または推進指針
・人権教育と人権啓発を総合的に扱う計画
・差別解消や多様性施策を横断的に扱う条例上の指針
・長期的な基本方針を具体化する行動計画または実施計画

学校教育だけを対象とする人権教育方針や、男女共同参画、障害者、子ども、外国人、犯罪被害者など特定分野だけを扱う計画は、原則として総合的人権施策文書とは区別した。

県公式サイト上で、本調査の定義に該当する単独文書を確認できなかった県についても、「計画が存在しない」「人権施策を実施していない」とは判断していない。教育、福祉、男女共同参画、障害者施策、外国人支援、犯罪被害者支援、差別解消条例など、複数の制度や分野別計画によって施策を構成している場合があるためである。

文書名や策定年だけでは、自治体の取組内容を評価できない。総合計画がなくても具体的な相談・救済制度を持つ県がある一方、総合計画を設けていても、担当部署、期限、数値目標、検証方法が明示されていない場合がある。

調査基準日:2026年6月23日
調査対象:47都道府県の公式サイト
調査方法:県公式サイト内検索、計画・方針本文、概要版、策定資料、改定資料、年次報告書の確認

47都道府県の人権施策計画・基本方針一覧

都道府県確認した総合的人権施策文書策定・最新改定文書の特徴・現在の状況原典URL
北海道北海道人権施策推進基本方針(第2次改定)2021年7月現行文書は第2次改定版。2026年に第3次基本方針案の検討が進められているhttps://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/dms/jinken/jinken-hp/r3housin.html
青森県本調査の定義に該当する総合的な単独文書を県公式サイト上で確認できず教育、男女共同参画、犯罪被害者支援などの分野別計画と啓発事業を個別に実施https://www.pref.aomori.lg.jp/
岩手県本調査の定義に該当する知事部局の総合的な単独文書を確認できず県教育委員会は2014年3月に、学校教育を主対象とする「岩手の人権教育基本方針」を策定https://www.pref.iwate.jp/kyouikubunka/kyouiku/gakkou/shouchuu/1056156/index.html
宮城県本調査の定義に該当する総合的な単独文書を県公式サイト上で確認できず男女共同参画、障害者、教育、犯罪被害者支援などの分野別制度で対応https://www.pref.miyagi.jp/life/1/4/index.html
秋田県多様性に満ちた社会づくりに関する指針2022年「秋田県多様性に満ちた社会づくり基本条例」に基づき、差別解消、相談、教育・啓発等を整理https://www.pref.akita.lg.jp/pages/archive/63094
山形県本調査の定義に該当する総合的な単独文書を県公式サイト上で確認できず人権啓発、男女共同参画、女性支援、学校教育などを分野別に実施https://www.pref.yamagata.jp/kurashi/jinken/index.html
福島県本調査の定義に該当する総合的な単独文書を県公式サイト上で確認できずユニバーサルデザイン、学校教育、男女共同参画等の制度に人権施策を分散しているhttps://www.pref.fukushima.lg.jp/
茨城県茨城県人権施策推進基本計画2004年2月人権教育・啓発、相談支援、分野別施策を総合的に扱う。県総合計画等との関係も確認する必要があるhttps://www.pref.ibaraki.jp/hokenfukushi/fukushi/jinken/koshi/jinken/keikaku/keik-000.html
栃木県栃木県人権施策推進基本計画(2026~2035)2026年3月27日計画期間は2026~2035年度。国の第二次基本計画や県内の意識調査を踏まえて策定https://www.pref.tochigi.lg.jp/c07/jinken/keikaku2635.html
群馬県第2次人権教育・啓発の推進に関する群馬県基本計画2024年3月計画期間は2024~2033年度。重要課題を14項目とし、成果を確認する指標を設定https://www.pref.gunma.jp/page/634858.html
埼玉県埼玉県人権施策推進指針(第2次改定)2022年3月2002年策定、2012年と2022年に改定。人権三法やインターネット上の侵害等を反映https://www.pref.saitama.lg.jp/a0303/shishin.html
千葉県千葉県人権施策基本指針2025年11月改定インターネット上の侵害、感染症に伴う差別、性的マイノリティ、各種ハラスメント等を反映https://www.pref.chiba.lg.jp/kenfuku/keikaku/kenkoufukushi/jinken.html
東京都東京都人権施策推進指針2015年8月人権課題別の施策方向、施策の進め方、重点的な取組を示すhttps://www.soumu.metro.tokyo.lg.jp/10jinken/sesaku/suishin/shishinn
神奈川県かながわ人権施策推進指針(第2次改定版)2022年3月人権三法、インターネット上の侵害、感染症をめぐる差別などの変化を反映https://www.pref.kanagawa.jp/docs/m8u/cnt/f5877/index.html
新潟県新潟県人権教育・啓発推進基本指針(第2次改定版)2021年6月人権に配慮した行政、人権教育・啓発、個別課題への対応を横断的に整理https://www.pref.niigata.lg.jp/sec/fukushihoken/jinkenshishin.html
富山県富山県人権教育・啓発に関する基本計画2025年3月改定県の各種施策と分野別計画に人権尊重の理念を反映する総合的な指針https://www.pref.toyama.jp/1021/kensei/kouhou/kouhoushi/kj00016456/2025/kouhou0708-4.html
石川県石川県人権教育・啓発行動計画(第2次改定版)2025年改定2023年度の県民意識調査や国・県の制度改正を反映https://www.pref.ishikawa.lg.jp/soumu/index.html
福井県福井県人権施策基本方針2006年1月策定、2025年7月修正条例に基づく基本方針。制度改正に応じて文言や関連法令を修正https://www.pref.fukui.lg.jp/doc/tihuku/jinkenhoushin.html
山梨県本調査の定義に該当する総合的な単独文書を県公式サイト上で確認できず人権啓発出前講座、学校教育、男女共同参画等を分野別に実施https://www.pref.yamanashi.jp/shokuhin-st/jinken/keihatsu.html
長野県長野県人権政策推進基本方針2010年2月全行政分野に人権尊重を反映する基本方針。毎年度の人権施策一覧を公表https://www.pref.nagano.lg.jp/jinken-danjo/kurashi/jinkendanjo/shisaku/kihonhoshin/
岐阜県岐阜県人権施策推進指針(第四次改定)2023年3月対象期間は2023~2027年度。相談体制、関係機関との連携、進行管理を記載https://www.pref.gifu.lg.jp/page/17678.html
静岡県静岡県人権施策推進計画(第4次改定版)2026年3月計画期間は2026~2030年度。国の第二次基本計画を踏まえ、成果指標を設定https://www.pref.shizuoka.jp/kurashikankyo/jinkennpo/jinkencenter/1002890/1081489.html
愛知県あいち人権推進プラン2024年3月計画期間は2024~2028年度。基本方針と中期行動計画を一体化し、年次レポートを公表https://www.pref.aichi.jp/soshiki/jinken/jinkenactionplan.html
三重県三重県人権施策基本方針(第三次改定)/第五次人権が尊重される三重をつくる行動プラン2024年3月長期的な基本方針と具体的な行動プランを組み合わせる二層構造https://www.pref.mie.lg.jp/TOPICS/m0011300017.htm
滋賀県滋賀県人権施策推進計画(第2次改定版)2024年7月計画期間は2024~2028年度。条例、基本方針、推進計画を組み合わせて運用https://www.pref.shiga.lg.jp/file/attachment/5499284.pdf
京都府京都府人権尊重の共生社会づくり施策推進計画2026年3月25日計画期間は2026年4月~2036年3月。従来の教育・啓発計画から対象範囲と名称を変更https://www.pref.kyoto.jp/jinken/plan/plan.html
大阪府大阪府人権施策推進基本方針2001年3月策定、2021年12月変更大阪府人権尊重の社会づくり条例を具体化する基本方針https://www.pref.osaka.lg.jp/o070020/jinken/houshin/index.html
兵庫県兵庫県人権教育及び啓発に関する総合推進指針(改定版)2016年3月改定家庭、学校、地域、職場などにおける教育・啓発を総合的に扱うhttps://web.pref.hyogo.lg.jp/kf06/shishin2016.html
奈良県奈良県人権施策に関する基本計画2004年3月策定、2020年3月改訂人権教育・啓発、相談支援、分野別施策を総合的に記載https://www.pref.nara.jp/5954.htm
和歌山県和歌山県人権施策基本方針(第四次改定版)2025年3月おおむね5年ごとに見直し。人権施策の実施状況も定期的に公表https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/021400/jinken.html
鳥取県鳥取県人権施策基本方針(第4次改訂版)2022年2月4日条例改正と2020年の人権意識調査を反映し、中長期的な施策方向を提示https://www.pref.tottori.lg.jp/302722.htm
島根県島根県人権施策推進基本方針(第二次改定)2019年3月2000年策定、2008年と2019年に改定https://www.pref.shimane.lg.jp/life/jinken/jinken/jinken/
岡山県第6次岡山県人権政策推進指針2026年3月国の第二次基本計画と県民意識調査を踏まえて改訂https://www.pref.okayama.jp/page/708311.html
広島県広島県人権教育・啓発指針/広島県人権啓発推進プラン(第5次)指針は2002年、プランは2021年3月第5次プランの終期を2026年10月まで延長。次期計画は2026年10月策定予定https://www.pref.hiroshima.lg.jp/soshiki/42/jinkenplan5.html
山口県山口県人権推進指針(令和6年度改定版)2024年12月改定2025年3月に改定版冊子と概要版を公表https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/soshiki/36/14902.html
徳島県徳島県人権教育・啓発に関する基本計画2004年12月中長期的な基本計画として運用し、計画に基づく事業実施状況を公表https://www.pref.tokushima.lg.jp/ippannokata/kurashi/jinken/2004122800010/
香川県香川県人権教育・啓発に関する基本計画2003年策定、2021年10月改正2026年に国の第二次基本計画等を踏まえた改正案を公表し、改正手続を進めているhttps://www.pref.kagawa.lg.jp/dowaseisaku/
愛媛県愛媛県人権施策推進基本方針(第四次改訂)2025年3月25日条例に基づく総合的な基本方針。2004年の策定後、複数回改訂https://www.pref.ehime.jp/page/7641.html
高知県高知県人権施策基本方針(第3次改定版)2024年3月具体的な取組の期間は2024~2028年度。相談・支援体制と差別事象への対応を記載https://www.pref.kochi.lg.jp/doc/jinnkenntohourei-html/
福岡県福岡県人権教育・啓発基本指針(改定)2018年3月同和問題、女性、子ども、高齢者、障害者、外国人、インターネット、性的少数者等を扱うhttps://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/jinken-kihonshishin-kaitei.html
佐賀県佐賀県人権施策基本方針2024年3月2023年施行の条例に基づき、「教育・啓発」と「当事者に寄り添った支援」を基本的な柱とするhttps://www.pref.saga.lg.jp/kiji003106049/index.html
長崎県長崎県人権教育・啓発基本計画(第3次改訂版)2022年3月計画に基づく施策の推進状況報告書を毎年度公表https://www.pref.nagasaki.jp/bunrui/kurashi-kankyo/danjokyodosankaku-jinkenkeihatsu/jinkenkeihatsu-jinkenkyoiku/kihonkeikaku-jinkenkeihatsu/body.html
熊本県熊本県人権教育・啓発基本計画(第5次改定版)2025年3月計画期間は2025~2028年度。性的指向・性自認、旧優生保護法被害者等に関する記述を追加https://www.pref.kumamoto.jp/soshiki/57/230641.html
大分県大分県人権尊重施策基本方針(第4次)2025年3月基本方針と2025~2028年度の実施計画を併せて策定https://www.pref.oita.jp/site/kokoro/zinkenkihouhousinndai4zi-1.html
宮崎県宮崎県人権施策基本方針2024年3月2022年施行の条例に基づいて策定。従来の人権教育・啓発推進方針を発展的に引き継ぐhttps://www.pref.miyazaki.lg.jp/jinkendowataisaku/kurashi/jinken/20240304135346.html
鹿児島県鹿児島県人権教育・啓発基本計画(3次改定)2025年4月公表国・県の法制度や社会状況の変化を反映。改定案への意見募集も実施https://www.pref.kagoshima.jp/ab16/kurashi-kankyo/jinken/jinkenkeihatu/kihonkeikaku/kihonkeikaku3.html
沖縄県本調査の定義に該当する総合的な単独文書を県公式サイト上で確認できず2023年4月施行の「沖縄県差別のない社会づくり条例」と分野別の教育・啓発施策を実施https://www.pref.okinawa.jp/heiwakichi/jinken/1005182/1032059.html

人権教育・啓発推進法は都道府県に同一形式の計画を義務付けていない

人権教育及び人権啓発の推進に関する法律第5条は、地方公共団体に対し、国との役割分担を踏まえ、地域の実情に応じた人権教育・啓発施策を策定、実施する責務を定めている。

これに対し、同法第7条に基づく「人権教育・啓発に関する基本計画」の策定義務を負うのは国である。同法は、各都道府県に対して、国と同じ名称や形式の基本計画を策定するよう直接義務付けてはいない。

この制度構造が、都道府県の文書名や構成に差が生じる理由の一つとなっている。自治体によっては、人権教育・啓発に限った計画を策定し、別の条例や分野別計画で相談・支援を扱う。別の自治体では、人権教育、啓発、相談、救済、行政運営を一つの基本方針にまとめている。

したがって、計画名が「基本計画」であるか「指針」であるかだけを見て、制度の充実度を判断することはできない。

都道府県の文書は四つの型に分かれる

今回確認した文書は、おおむね四つの型に整理できる。

期間を定める計画型

栃木県は2026~2035年度、群馬県は2024~2033年度、滋賀県は2024~2028年度、静岡県は2026~2030年度、京都府は2026年4月~2036年3月を対象期間としている。

期限を設けることで、次回改定の時期や施策の検証時点が明確になる。ただし、計画期間が書かれていても、中間評価や年次報告の仕組みがなければ、期間中の進捗は把握しにくい。

終期を設けない方針・指針型

東京都、長野県、大阪府、兵庫県などは、行政運営の基本原則を示す方針・指針を長期的に使用している。社会状況や法制度の変化に対して、文書全体を数年ごとに作り直すのではなく、部分的な改定や関連施策の追加によって対応する場合がある。

この型では、基本方針とは別に、毎年度の事業一覧や分野別計画を確認しなければ、現在の施策内容を把握できない。

基本方針と行動計画を分ける二層型

三重県は、長期的な「三重県人権施策基本方針」と、具体的な事業を示す「人権が尊重される三重をつくる行動プラン」を組み合わせている。

大分県も「人権尊重施策基本方針」と、2025~2028年度の実施計画を併せて策定した。滋賀県では、条例、基本方針、推進計画がそれぞれ役割を持つ。

理念と実施事業を分けることで、基本的な考え方を維持しながら、短い期間で事業を見直すことができる。

条例・分野別計画で構成する型

本調査の定義に該当する総合的な単独文書を確認できなかった県でも、条例や分野別計画によって人権施策を実施している。

岩手県は、学校教育を主な対象とする「岩手の人権教育基本方針」を策定している。沖縄県は「沖縄県差別のない社会づくり条例」に基づき、差別解消のための教育・啓発や相談対応を進めている。

総合計画が見当たらないことと、施策が存在しないことは別である。複数の計画に施策が分散している場合には、住民や当事者が制度の全体像を把握しにくくなるという課題もある。

2024年以降、策定・改定が相次ぐ

2024年以降、群馬県、愛知県、三重県、滋賀県、山口県、高知県、佐賀県、宮崎県などで基本計画や基本方針が策定・改定された。

2025年には、千葉県、富山県、石川県、和歌山県、愛媛県、熊本県、大分県、鹿児島県などが改定を行った。2026年には、栃木県、静岡県、京都府、岡山県で新たな計画や指針が策定されている。

これらの改定理由は一様ではない。人権三法、こども基本法、障害者差別解消法の改正、性的指向・性自認に関する制度、インターネット上の中傷、感染症に伴う差別、旧優生保護法被害者への補償など、複数の法制度と社会課題が改定内容に影響している。

2025年6月の国の第二次基本計画後に策定された栃木県、静岡県、京都府、岡山県の文書では、国の改定内容を参照した記述が確認できる。ただし、すべての都道府県改定が国の第二次基本計画を直接の原因として行われたわけではない。

滋賀県のように、国の第二次基本計画より前から、部落差別解消推進法、新型コロナウイルス感染症、SNS上の誹謗中傷、性的指向・性自認をめぐる環境変化などを受けて改定を前倒しした例もある。

新しい計画に加わる人権課題

女性、子ども、高齢者、障害者、同和問題、外国人、感染症患者、ハンセン病患者・元患者、犯罪被害者、刑を終えて出所した人などは、多くの都道府県文書で個別課題として扱われている。

近年の改定では、インターネット上の人権侵害、性的指向・性自認、ヘイトスピーチ、働く人の人権、ビジネスと人権、旧優生保護法被害者などの記述が増えている。

同和問題の名称には、「同和問題」「部落差別」「同和問題(部落差別)」などの違いがある。独立項目として扱う県もあれば、インターネット上の差別、身元調査、土地差別調査などの具体的な行為と結び付けて説明する県もある。

性的指向・性自認についても、「性的少数者」「性的マイノリティ」「多様な性」「性的指向・性自認」「性的指向及びジェンダーアイデンティティ」など、表記は統一されていない。

熊本県は2025年の第5次改定で、「性的指向・性自認に関する人権」と「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた方々の人権」に関する記述を加えた。宮崎県は「多様な性」や「働く人」を個別課題として扱っている。

国の第二次基本計画に加わった「ビジネスと人権」については、今後の都道府県改定でも取扱いが増える可能性がある。ただし、企業向け啓発を記載するだけなのか、公共調達、委託、指定管理、サプライチェーン、外国人労働者、苦情処理まで対象とするのかによって、施策の内容は異なる。

人権課題の掲載数だけでは施策を評価できない

計画に多数の人権課題を掲載していても、具体的な担当部署、実施事業、期限、予算、評価方法が示されていなければ、施策の進捗を検証することは難しい。反対に、総合計画に掲載された課題数が少なくても、個別条例や専門計画に基づき、相談、調整、助成、支援を具体的に実施している自治体がある。

計画を比較する際には、少なくとも次の三段階を分ける必要がある。

第一は、どの人権課題を行政課題として認識しているかである。

第二は、その課題に対して、どの部署が何を実施するかである。

第三は、実施した施策が権利侵害の予防や被害の解決につながったかを、どのように検証するかである。

課題名が計画に存在することと、相談・支援制度が利用できることは同じではない。

数値目標と年次報告にも違い

群馬県は第2次基本計画で目標指標を設け、「基本的人権が守られていると思う人の割合」などを計画の進行管理に用いている。静岡県の第4次改定版も、施策分野ごとに成果指標を設定した。

愛知県は「あいち人権推進プラン」に基づく施策を年次レポートとして公表している。長崎県は第3次改訂版の推進状況報告書を毎年度作成し、徳島県も基本計画に基づく事業実施状況を公表している。

大分県は長期的な基本方針と2025~2028年度の実施計画を分け、事業の実施状況を点検する構成を採った。

数値目標には、施策の進捗を見える形にする利点がある。しかし、「人権が尊重されていると思う人の割合」などの意識指標だけでは、差別や権利侵害の発生状況を十分に把握できない。

相談件数が減った場合にも、権利侵害が減少したのか、相談窓口が知られていないのか、利用しにくいのかを区別する必要がある。意識調査、相談件数、解決までの期間、相談者の属性、合理的配慮の提供状況、研修後の行動変化などを組み合わせて検証する方が、施策の実態を捉えやすい。

教育・啓発計画だけでは相談・救済制度の全体像を評価できない

人権教育と啓発は、差別の予防や理解の促進を担う。しかし、すでに権利侵害を受けた人への相談、支援、調整、救済とは役割が異なる。

差別的な取扱い、虐待、ハラスメント、インターネット上の中傷、合理的配慮の不提供が生じた場合、被害を受けた人には、事実確認、専門相談、安全確保、法的支援、削除要請、関係者間の調整、再発防止などが必要となる場合がある。

佐賀県が2024年の基本方針で、「教育・啓発」と「当事者に寄り添った支援」を二つの柱としたことは、啓発だけでなく、権利侵害を受けた人への対応を行政施策に組み込む構成である。

宮崎県も2024年の基本方針に相談支援体制を記載し、高知県は第3次改定で相談・支援体制と差別事象への対応を整理している。

ただし、計画本文に相談窓口が記載されているだけでは、実際の利用しやすさまでは判断できない。電話以外の相談方法、夜間・休日対応、多言語対応、手話や文字による相談、子ども向け窓口、相談後の手続なども確認対象となる。

計画策定時の当事者参加も比較項目

都道府県の計画策定では、審議会、関係団体への意見聴取、県民意識調査、パブリックコメントなどが行われている。

愛知県は「あいち人権推進プラン」の策定に当たり、審議会、関係団体へのヒアリング、県民意見募集などを実施した。鹿児島県の3次改定案には、9者から29件の意見が寄せられた。

もっとも、ウェブサイトに計画案を掲載して意見を待つ方式だけでは、制度を知らない人、日本語で長い行政文書を読むことが難しい人、障害によって情報へのアクセスが制限される人、意見を表明することで不利益を受ける可能性がある人の声は届きにくい。

策定過程を評価する際には、意見募集を実施したかだけでなく、差別や権利侵害を経験した当事者、支援団体、子ども、外国人、障害者などが参加できる方法を用意したかを確認する必要がある。

やさしい日本語、多言語、手話通訳、点字・音声資料、子ども向けの説明、関係団体を通じた聴き取りなどを用いることで、通常のパブリックコメントでは届きにくい意見を把握できる。

計画の策定年が古いことと、現在の施策が古いことは同じではない

茨城県、大阪府、長野県、兵庫県、徳島県などでは、現行文書の原型が2000年代に策定されている。

策定年だけを見ると、インターネット上の差別、性的指向・性自認、ビジネスと人権などに対応していないように見える場合がある。しかし、基本方針を長期的な原則として残し、年次事業、分野別計画、条例、個別施策によって新たな課題に対応している自治体もある。

長野県は2010年策定の基本方針を継続しながら、毎年度の人権施策一覧を公表している。徳島県も2004年策定の基本計画に基づく事業実施状況を公表する。

反対に、策定時期が新しい計画であっても、理念や課題一覧にとどまり、実施主体、期限、評価方法が記載されていなければ、施策がどこまで進んだかを検証しにくい。

比較に当たっては、策定年月、本文の改定状況、実施計画、年次報告、条例、県民意識調査を一体として確認する必要がある。

都道府県計画を読む五つの基準

自治体職員、研究者、研修担当者、地域団体が各県の計画を参照する場合、次の五つを分けて確認すると制度の特徴を把握しやすい。

1.法的根拠と対象範囲

条例に基づく文書か、人権教育・啓発推進法を踏まえた行政計画か。教育・啓発だけを扱うのか、相談、支援、救済、行政運営まで含むのか。

2.個別課題の具体性

人権課題の名称を列挙するだけでなく、地域で生じている問題、被害の内容、制度上の課題、担当部署、具体的な施策まで記載しているか。

3.実施管理

計画期間、実施計画、担当部署、数値目標、年次報告、中間評価、見直し時期が示されているか。

4.相談・支援

相談窓口、専門機関との連携、関係者間の調整、被害者支援、情報削除への対応、再発防止などが含まれているか。

5.当事者参加

審議会や意見募集に、差別や権利侵害を受ける当事者、支援団体、子ども、外国人、障害者などが参加できる仕組みがあるか。

この五つを確認すれば、「人権課題を何項目掲載しているか」という単純な比較から離れ、行政がどのように施策を実施し、その結果を検証するのかまで把握できる。

2026年度も北海道、香川県、広島県で見直し続く

北海道では、現行の第2次改定版に続く「北海道人権施策推進基本方針(第3次)」の策定作業が進められている。2026年6月23日時点では、第3次方針を確定済みの現行文書としては扱わず、改定作業中と整理した。

香川県では、2026年に「香川県人権教育・啓発に関する基本計画」の改正案が示され、パブリックコメントや県人権・同和政策協議会での審議が行われている。改正案には、インターネット上の人権侵害を課題横断的な人権課題として整理する構成などが盛り込まれている。

広島県は、現行の「広島県人権啓発推進プラン(第5次)」の終期を7か月延長し、2026年10月までとした。次期計画は2026年10月の策定を予定している。

国の第二次基本計画後に策定された計画だけでなく、北海道、香川県、広島県の改定後の文書が、ビジネスと人権、インターネット上の侵害、ヘイトスピーチ、性的マイノリティ、相談・支援、施策評価をどのように扱うかが、次回更新時の比較対象となる。

出典

法務省、文部科学省、47都道府県公式サイト

URL:https://www.moj.go.jp/JINKEN/JINKEN83/jinken83.html
URL:https://www.moj.go.jp/content/001440421.pdf
URL:各都道府県の原典は本文中の一覧表に掲載

人権ニュース編集部

人権ニュース編集部は、官公庁、自治体、企業、公益団体、国際機関等が公表する一次情報をもとに、差別、労働、教育、福祉、司法・制度、外国人共生、ビジネスと人権などに関するニュースと解説を発信しています。掲載内容は、出典確認を行ったうえで、制度的背景や人権上の論点を補足して構成しています。

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