技能実習制度とは、外国人を日本で一定期間受け入れ、企業や事業所で働きながら技能、技術、知識を修得してもらい、その技能を母国の経済発展などに役立てることを目的としてきた制度です。正式には「外国人技能実習制度」と呼ばれます。
制度上は技能移転による国際貢献を目的としてきましたが、日本の人手不足分野で多数の技能実習生が働くようになる中、制度目的と実態のかい離、転籍の制約、労働条件、送出し費用、相談のしにくさなどが人権上の課題として指摘されてきました。
こうした問題を背景に、政府は技能実習制度を発展的に解消し、新たに「育成就労制度」を創設しました。育成就労制度は2027年4月1日に施行され、人材育成だけでなく、人手不足分野における人材確保も制度目的として明確に位置付けられます。
1.技能実習制度の意味
技能実習制度では、外国人が日本の企業や事業所と雇用関係を結び、技能実習計画に基づいて働きながら技能を身につけます。
受入れ方式には、大きく「企業単独型」と「団体監理型」があります。
企業単独型は、日本企業の海外現地法人や取引先などの職員を日本に受け入れる方式です。団体監理型は、事業協同組合などの非営利の監理団体が技能実習生の受入れを支援し、その傘下の企業などで技能実習を行う方式です。
技能実習は1号、2号、3号という段階に分かれ、一定の要件を満たす場合には最長5年間の実習が可能です。外国人技能実習機構による制度説明でも、1号・2号の3年間に3号の2年間を加え、最長5年間とされています。
技能実習生にも労働法が適用される
技能実習生は「実習生」という名称ですが、入国直後の講習期間などを除き、受入企業との雇用関係の下で働きます。
そのため、
- 労働基準法
- 最低賃金法
- 労働安全衛生法
- 労災保険制度など
日本の労働関係法令が適用されます。
外国人であることや技能実習生であることを理由に、最低賃金を下回る賃金、違法な長時間労働、危険な作業環境などが許されるわけではありません。
人権の観点では、技能実習生を「技能を学ぶ人」であると同時に、労働者として権利を持つ人として捉える必要があります。
2.制度・法律との関係
技能実習制度は、入管法と技能実習法を中心に運用されてきました。
入管法は在留資格や在留期間などを規定し、技能実習法は技能実習の適正な実施と技能実習生の保護を目的としています。
外国人技能実習機構は、技能実習計画の認定、実習実施者や監理団体への実地検査・指導、技能実習生からの相談対応などを担います。
技能実習生をめぐっては、
受入企業
→ 監理団体
→ 海外の送出し機関
→ 外国人技能実習機構
→ 出入国在留管理機関
など複数の主体が関係します。
この複雑な構造そのものが、問題が発生した際に「誰に相談すればよいのか分かりにくい」という課題につながる場合があります。
旅券の取り上げや私生活の制限は禁止
技能実習法では、技能実習生の旅券や在留カードを受入側が保管することや、外出など私生活の自由を不当に制限することは禁止されています。
出入国在留管理庁の運用要領では、携帯電話などの私物を取り上げること、合理的理由なく外出を一律に禁止すること、男女交際を禁止すること、妊娠しないことを誓約させることなども問題となる行為として示されています。
つまり、労働条件だけでなく、移動の自由、私生活、妊娠・出産なども技能実習生の人権問題です。
3.人権上の論点
技能実習制度をめぐる最大の論点の一つは、制度目的と実際の労働実態のずれです。
制度は「技能移転による国際貢献」を掲げてきましたが、日本の人手不足が深刻になる中、技能実習生が労働力として重要な役割を担ってきました。
政府自身も、育成就労制度を創設した理由について、技能実習制度には制度目的と実態のかい離や外国人の権利保護の観点から課題があったと説明しています。
転籍の制約
技能実習制度では、特定の技能実習計画と実習実施者の下で実習する仕組みとなっているため、一般の労働者のように自由に転職することは困難でした。
暴力や重大な法令違反など「やむを得ない事情」がある場合には転籍が可能ですが、実際に別の受入先を見つけることや手続きを進めることが容易とは限りません。
政府は2024年11月、やむを得ない事情がある場合の転籍について運用改善を行っています。
転籍しにくい状況では、賃金不払い、ハラスメント、不適切な労働条件などがあっても、
「職場を辞めれば日本にいられなくなるのではないか」
と考え、被害を訴えにくくなる可能性があります。
人権問題として重要なのは、制度上相談窓口が存在することだけでなく、問題のある職場から実際に離れられる選択肢があるかという点です。
来日前の費用と借金
もう一つの大きな問題が、来日前に技能実習生が負担する費用です。
厚生労働省が示した調査では、送出し機関や仲介者に費用を支払った技能実習生について、平均支払額が50万円を超えていたデータがあります。また、親族や金融機関などから借金をして費用を準備するケースも確認されています。
多額の借金を抱えて来日した場合、
「仕事を辞めると借金を返せない」
という経済的圧力が生じます。
そのため送出し費用は、単なる渡航費用の問題ではなく、技能実習生が劣悪な環境から離れられるかという実質的な選択の自由にも関係します。
生活者としての権利
技能実習生は、日本で働く労働者であると同時に、日本で生活する住民でもあります。
住居、医療、日本語学習、行政手続、宗教や食文化、地域社会との関係、災害時の情報など、職場外にもさまざまな課題があります。
労働問題だけを解決しても、生活上の孤立が残れば権利保障として十分とはいえません。
企業や監理団体だけでなく、自治体、医療機関、外国人相談窓口、支援団体などとの連携も重要になります。
4.2027年4月から育成就労制度へ
2024年6月に成立した改正法によって、技能実習制度は発展的に解消され、「育成就労制度」が創設されることになりました。
施行日は2027年4月1日です。
技能実習制度と大きく異なるのは、制度目的です。
技能実習制度は「技能移転による国際貢献」を目的としてきました。
これに対して育成就労制度は、人手不足分野で外国人を3年間の就労を通じて特定技能1号水準まで育成するとともに、人材を確保することを目的とします。
これまで制度の実態として存在していた「外国人材を日本の産業で働く人として受け入れる」という側面が、制度目的として明確化されることになります。
本人の希望による転籍も可能に
育成就労制度では、暴力やハラスメントなどの「やむを得ない事情」による転籍に加え、一定の要件を満たした場合には本人の意向による転籍も認められます。
ただし完全に自由な転職制度になるわけではありません。
同一業務区分内であることや、一定の技能・日本語能力を身につけていること、分野ごとに設定される転籍制限期間を経過していることなどの条件があります。
転籍制限期間は原則的な考え方として1年を目指しつつ、分野によって1年以上2年以下で設定する仕組みとなっています。
したがって、新制度になれば転籍問題が自動的に解決するわけではありません。
本人が実際に転籍できるのか、転籍先が見つかるのか、相談や手続の支援が機能するのかが、人権上の重要な検証点になります。
5.技能実習制度は2027年4月に一斉終了するわけではない
育成就労制度が始まる2027年4月1日に、すべての技能実習生が直ちに新制度へ切り替わるわけではありません。
施行日時点ですでに技能実習を行っている人などについては、経過措置があります。
出入国在留管理庁によると、2027年4月1日時点ですでに来日している技能実習生や、2027年3月31日までに技能実習計画の認定申請が行われ、原則として同年6月30日までに技能実習を開始する人は、一定の条件の下で従来の技能実習を継続できます。
このため、2027年度以降しばらくは、
旧技能実習制度で働く外国人
と
新しい育成就労制度で働く外国人
が併存する移行期間になります。
2026年8月現在、育成就労制度の施行準備もすでに進んでおり、監理支援機関の許可に関する施行前申請は開始され、育成就労計画の認定に関する施行前申請は2026年9月1日から予定されています。
6.制度名の変更だけで人権問題は解消しない
技能実習制度から育成就労制度への移行は、日本の外国人労働政策の大きな転換です。
しかし、人権の観点では、制度の名称や法律が変わるだけでは十分ではありません。
今後問われるのは、
転籍の実効性
送出し費用の適正化
賃金・労働時間の適正化
暴力・ハラスメントの防止
相談窓口へのアクセス
妊娠・出産など私生活上の権利
日本語・生活支援
監理・支援機関への監督
が現実に改善するかどうかです。
技能実習制度の経験を検証することは、新しい育成就労制度で同じ問題を繰り返さないためにも重要です。
外国人を「不足する労働力」としてだけ見るのではなく、日本で働き、生活し、権利を持つ一人の人間として受け入れられるかが、制度移行後も問われ続けます。
関連用語
育成就労制度
技能実習制度に代わり、2027年4月から始まる外国人材の育成・確保を目的とする制度です。
育成就労制度とは|人権ニュース
特定技能
人手不足分野で外国人材を受け入れる在留資格です。育成就労制度は、原則として特定技能1号への移行を見据えて設計されています。
特定技能とは|人権ニュース
入管法
外国人の在留資格、在留期間、退去強制、難民認定などを定める法律で、技能実習や育成就労制度とも密接に関係します。
入管法とは|人権ニュース
外国人労働者
日本で働く外国人を幅広く指す言葉です。技能実習生も、日本の労働関係法令が適用される労働者です。
外国人労働者とは|人権ニュース
人身取引
暴力、脅迫、欺罔、立場の弱さなどを利用して、人を搾取する行為です。外国人労働者の高額な借金や移動の自由の制限などとの関係でも重要な人権課題です。
人身取引とは|人権ニュース
強制労働
本人の自由な意思によらず、不利益や処罰のおそれの下で働かされることをいいます。技能実習制度を人権の観点から考える際の重要な概念です。
強制労働とは|人権ニュース
ディーセント・ワーク
公正な収入、安全な労働環境、社会的保護、働く上での権利などが保障された「人間らしい働きがいのある仕事」を意味します。技能実習生や外国人労働者にも関係する概念です。
ディーセント・ワークとは|人権ニュース
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主な出典
- 出入国在留管理庁「令和6年入管法等改正について」 出入国在留管理庁の資料
- 出入国在留管理庁「育成就労制度Q&A」 育成就労制度Q&A
- 外国人技能実習機構「外国人技能実習制度の仕組み」 外国人技能実習機構の資料
- 厚生労働省「外国人技能実習制度について」 厚生労働省の技能実習制度ページ