結社の自由・団体交渉権とは、労働者が自らの利益を守るために労働組合などを結成・加入し、使用者と労働条件について交渉する権利を指します。ILO中核的労働基準の一つであり、ビジネスと人権の分野では、労働者が賃金、労働時間、安全衛生、差別、ハラスメントなどの問題について声を上げるための基礎となる権利です。
1.結社の自由・団体交渉権の意味
結社の自由とは、労働者が自らの意思で労働組合などの団体を作り、加入し、活動できる権利です。団体交渉権とは、労働者の代表が使用者と労働条件や職場環境について交渉する権利です。これらは、労働者が一人では対等に交渉しにくい場面で、集団として声を上げるための仕組みです。
労働者は、賃金、労働時間、休暇、安全衛生、配置、解雇、差別、ハラスメント、育児・介護との両立など、多くの問題で使用者との力関係に差があります。結社の自由と団体交渉権は、その力の差を補い、労働条件を公正に整えるための権利です。
ビジネスと人権の文脈では、この権利は自社の正社員だけでなく、サプライチェーン上の労働者にも関係します。取引先の工場、下請企業、物流、清掃、警備、海外拠点などで、労働者が組合活動を理由に不利益を受けたり、代表者との交渉が妨げられたりすれば、企業活動と結び付く人権リスクになります。
2.制度・法律との関係
結社の自由と団体交渉権は、ILOの基本的原則及び権利の一つです。中心となる条約は、ILO第87号条約「結社の自由及び団結権の保護に関する条約」と、ILO第98号条約「団結権及び団体交渉権についての原則の適用に関する条約」です。これらは、ILO中核的労働基準を構成する基本条約に含まれます。
日本国内では、日本国憲法第28条が、勤労者の団結する権利、団体交渉をする権利、団体行動をする権利を保障しています。労働組合法は、労働組合の結成・運営、団体交渉、不当労働行為の救済などを定めています。使用者が、労働組合に加入したことを理由に不利益に扱うこと、団体交渉を正当な理由なく拒むこと、組合運営に支配介入することなどは、不当労働行為として問題になります。
国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」やOECD多国籍企業行動指針、ILO多国籍企業宣言でも、労働者の権利は企業の人権尊重責任の中心的な課題です。企業が人権方針や人権デュー・ディリジェンスを進める場合、結社の自由と団体交渉権が自社や取引先で尊重されているかを確認する必要があります。
企業実務では、労働組合の有無だけで判断するのではなく、労働者が報復を恐れずに意見を述べられるか、労働者代表が実質的に機能しているか、団体交渉が誠実に行われているか、取引先で組合活動への妨害や差別的取扱いがないかを確認することが重要です。
3.人権上の論点
結社の自由・団体交渉権の人権上の論点は、労働者が職場の問題について集団で声を上げ、使用者と対話できるかどうかにあります。労働者が個人として不満や被害を訴えるだけでは、雇用上の立場の弱さから、改善につながりにくい場合があります。団結と交渉の権利は、労働者が沈黙を強いられないための制度的な支えです。
この権利は、他の人権課題を発見し、是正するための手段でもあります。長時間労働、賃金未払い、安全衛生上の危険、差別、ハラスメント、強制労働、児童労働などは、現場で働く人が声を上げられなければ表面化しにくくなります。結社の自由や団体交渉権が抑え込まれている職場では、人権侵害が隠れやすくなります。
サプライチェーン上では、取引先の労働者が組合を作れない、労働者代表が企業側に近すぎる、苦情を述べた人が不利益を受ける、外国人労働者が言語や在留資格の不安から声を上げられない、といった問題が起こり得ます。企業は、取引先に対して一方的に調査票を送るだけでなく、労働者の実際の声が届く仕組みを確認する必要があります。
用語集で結社の自由・団体交渉権を扱う意義は、ビジネスと人権を「企業が問題を調べる」だけでなく、「労働者が自ら権利を行使できるか」という視点から理解できるようにする点にあります。労働者が自由に団結し、交渉し、必要な場合に団体行動をとれることは、ディーセント・ワークと人権デュー・ディリジェンスを実効的にする前提です。