損害賠償命令制度とは

損害賠償命令制度とは、一定の犯罪の被害者や遺族等が、刑事裁判の成果を利用して、加害者に対する損害賠償を簡易・迅速に求めることができる制度です。刑事裁判を担当した裁判所が、有罪判決の後、原則として4回以内の審理で損害賠償命令の申立てについて判断します。犯罪被害者等の経済的回復と、刑事手続後の生活再建を考えるうえで重要な制度です。

1.損害賠償命令制度の意味

損害賠償命令制度は、犯罪被害者や遺族等が、加害者に対する損害賠償請求を、刑事裁判に付随する手続として行える制度です。通常、損害賠償を求めるには、刑事裁判とは別に民事訴訟を起こす必要があります。しかし、被害者や遺族にとって、事件後に改めて民事裁判を起こし、証拠を集め、長い手続を進めることは大きな負担になります。

この制度では、刑事裁判で取り調べられた証拠や認定された事実を利用して、損害賠償の判断を行います。そのため、被害者や遺族が民事訴訟を一から始める場合に比べ、手続上の負担を軽くし、迅速な解決を図ることができます。

申立てができるのは、一定の重大な犯罪の被害者や遺族等です。対象となる事件には、故意の犯罪行為により人を死亡させたり傷つけたりした罪、不同意性交等や不同意わいせつなどの性犯罪、逮捕・監禁、過失運転致死傷などが含まれます。すべての犯罪被害が対象になるわけではなく、法律上の対象事件に該当する必要があります。

2.制度・法律との関係

損害賠償命令制度の根拠となる法律は、「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律」です。この法律は、刑事手続に関わる犯罪被害者等の権利利益を保護するため、公判記録の閲覧・謄写、被害者参加弁護士、刑事和解、損害賠償命令などの制度を定めています。

手続は、刑事事件が地方裁判所に係属している間に、被害者や遺族等が同じ裁判所に申し立てる形で始まります。裁判所は、刑事事件について有罪判決を言い渡した後、損害賠償命令の審理を行います。原則として4回以内の審理で判断されるため、通常の民事訴訟よりも簡易・迅速な手続として設計されています。

損害賠償命令に対して、申立人または相手方が異議を申し立てた場合には、通常の民事訴訟に移行します。このため、制度は民事上の損害賠償請求を簡易に処理する仕組みでありながら、当事者が通常訴訟による審理を求める道も残しています。

犯罪被害者等基本法との関係では、損害賠償命令制度は、損害回復と経済的支援に関わる制度の一つです。犯罪被害者等基本法は、犯罪被害者等が再び平穏な生活を営むことができるよう、国や地方公共団体が必要な施策を講じることを定めています。損害賠償命令制度は、そのうち民事上の損害回復を支える仕組みとして理解できます。

3.人権上の論点

損害賠償命令制度をめぐる人権上の論点は、犯罪被害者や遺族が、被害後の経済的損失を回復するために過度な手続負担を負わされないようにすることにあります。犯罪被害は、医療費、葬祭費、休業損害、逸失利益、介護費用、転居費用、精神的損害など、生活全体に影響します。加害者に対する刑罰だけでは、こうした被害後の生活上の損失は回復されません。

通常の民事訴訟を起こすには、時間、費用、精神的負担がかかります。被害者や遺族は、刑事裁判に対応しながら、さらに別の裁判を進めなければならない場合があります。損害賠償命令制度は、刑事裁判の成果を利用することで、こうした負担を軽くし、被害回復へのアクセスを広げる制度です。

一方で、この制度には限界もあります。損害賠償命令が出ても、加害者に資力がなければ、実際に賠償を受け取ることが難しい場合があります。制度は賠償請求の手続を簡易・迅速にするものですが、賠償金の回収そのものを必ず保障するものではありません。そのため、犯罪被害給付制度、民事法律扶助、自治体の見舞金制度、生活支援などと組み合わせて考える必要があります。

損害賠償命令制度は、犯罪被害者本人、家族、遺族が、刑事裁判の後に生活を立て直すための制度です。被害者等が損害回復を求める機会を実質的に確保するためには、検察庁、裁判所、弁護士、被害者支援団体が、制度の対象、申立ての時期、通常訴訟への移行の可能性を分かりやすく説明することが重要になります。

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