公共調達と人権とは

公共調達と人権とは、国や自治体、独立行政法人などが物品、サービス、工事などを調達する際に、契約先企業による人権尊重の取組を考慮する考え方です。ビジネスと人権の分野では、行政が買い手としての立場を通じて、サプライチェーン上の強制労働、児童労働、差別、ハラスメント、安全衛生などの人権リスクに対応する手段として注目されています。

1.公共調達と人権の意味

公共調達とは、国、地方公共団体、独立行政法人などの公的機関が、物品、役務、工事、委託業務などを契約によって調達することです。庁舎管理、清掃、警備、建設、システム開発、制服、備品、食品、福祉サービス、調査研究、イベント運営など、対象は幅広く、企業や団体にとって重要な取引機会になります。

公共調達と人権は、公的機関が単に安い価格で物品やサービスを購入するのではなく、その調達の過程で人権への負の影響を助長していないかを考えるものです。契約先やその下請先で、賃金未払い、長時間労働、安全衛生上の危険、差別、ハラスメント、強制労働、児童労働、外国人労働者への不適切な処遇などがあれば、公的な資金が人権侵害と結び付くおそれがあります。

ビジネスと人権の文脈では、公共調達は行政側の責任と企業側の責任が交わる領域です。行政は発注者として、企業に人権尊重の取組を促すことができます。企業は受注者として、自社だけでなく、再委託先や下請先を含めた人権リスクへの対応が問われます。

2.制度・法律との関係

公共調達と人権は、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」における国家の人権保護義務と関係します。国家は、企業活動による人権侵害から人々を保護する義務を負っています。公共調達は、国家や自治体が市場の参加者として企業と契約する場面であり、発注者として人権尊重を促す余地があります。

日本政府の「ビジネスと人権」に関する行動計画の改定版では、「公共調達・補助金事業等を含む公契約」が優先分野の一つに掲げられています。具体的には、公共調達における企業等による人権尊重の推進や、国際約束及び現行法令の範囲内で、補助金事業における企業等による人権尊重の取組を審査基準等へ組み入れることの検討が示されています。

また、日本政府は「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を示しており、企業に対して、人権方針の策定、人権デュー・ディリジェンス、救済への対応を求めています。公共調達の場面でも、こうしたガイドラインを踏まえた取組が企業に期待されます。

公共調達に人権配慮を組み込む方法には、入札参加資格、仕様書、契約条項、評価項目、報告義務、再委託先管理、相談窓口の整備などが考えられます。ただし、調達制度には公平性、競争性、透明性、国際約束との整合性も求められるため、人権配慮を導入する場合には、明確で合理的な基準づくりが必要になります。

3.人権上の論点

公共調達と人権の人権上の論点は、公的資金が人権への負の影響を支える形になっていないかという点にあります。税金を使って調達される物品やサービスが、低賃金、危険な労働、差別的取扱い、強制労働、児童労働の上に成り立っていれば、行政の事業そのものの正当性が問われます。

特に、清掃、警備、建設、介護、福祉、給食、物流、システム開発、コールセンター、制服や備品の製造などでは、委託先や下請先で働く人の労働条件が見えにくくなることがあります。公共調達の価格競争が過度に強くなると、人件費の圧縮、長時間労働、安全衛生対策の不足、外国人労働者や非正規労働者へのしわ寄せが生じるおそれがあります。

公共調達に人権の視点を入れることは、単に企業へ新しい負担を課すことではありません。発注者である行政が、契約条件や価格設定、納期、再委託の扱いを通じて、人権リスクを助長していないかを点検することでもあります。発注側の無理な仕様変更、低価格での発注、短納期が、受注企業や下請労働者に負担を転嫁する場合もあります。

用語集で公共調達と人権を扱う意義は、ビジネスと人権を民間企業だけの課題としてではなく、行政の契約実務や公的資金の使い方と結び付けて理解できるようにする点にあります。公共調達で人権尊重を進めることは、企業の人権デュー・ディリジェンスを促し、サプライチェーン上のライツホルダーを守るための重要な手段になります。

タイトルとURLをコピーしました