地域改善対策特別措置法とは、同和対策事業特別措置法の後継として、1982年に制定された同和行政関係の時限立法です。対象地域について、生活環境の改善、産業の振興、職業の安定、教育の充実、人権擁護活動の強化、社会福祉の増進などに関する事業を「地域改善対策事業」として進めるための法律でした。同和対策事業特別措置法の成果と課題を踏まえ、同和問題の解決に向けた特別対策を継続する制度として位置づけられます。
1.地域改善対策特別措置法の意味
地域改善対策特別措置法は、1969年に制定された同和対策事業特別措置法の後を受け、同和問題の解決に向けた行政施策を継続するために設けられた法律です。昭和57年法律第16号として、1982年3月31日に公布されました。
同和対策事業特別措置法は、1965年の同和対策審議会答申を受け、対象地域の生活環境改善や教育、福祉、就労、人権擁護活動を進めるための特別措置法として制定されました。同法は当初、10年間の時限立法でしたが、その後3年間延長されました。
地域改善対策特別措置法は、その後継として、1982年度以降も必要な事業を継続するために制定されました。法律名では「同和」という語は使われず、「地域改善対策」という名称が用いられましたが、対象としていたのは、従前の同和対策事業の流れを受けた地域改善に関する施策でした。
この法律では、対象地域とその周辺地域との一体性の確保や、公正な運営に努めることも重視されました。同和対策事業の成果を引き継ぎながら、事業運営のあり方や周辺地域との関係にも配慮する段階に入った法律といえます。
2.制度・法律との関係
地域改善対策特別措置法は、同和対策事業特別措置法、地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律、部落差別解消推進法と連続して理解する必要があります。
制度の流れを見ると、まず1965年に同和対策審議会答申が出され、同和問題の解決は国の責務であり国民的課題であるとされました。これを受けて、1969年に同和対策事業特別措置法が制定され、生活環境、福祉、教育、就労、人権擁護活動などを含む総合的な同和対策事業が進められました。
その後、1982年に地域改善対策特別措置法が制定されました。同法は5年間の時限立法で、同和対策事業特別措置法の後継として、必要な地域改善対策事業を継続するための制度でした。
さらに、1987年には地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律が制定されました。同法は、引き続き実施することが特に必要と認められる事業について、国の財政上の特別措置を定めるものでした。その後、延長や経過措置を経て、2002年3月末に特別対策は終了しました。
2002年以降、同和問題に関する施策は、同和地区・同和関係者を対象とする特別対策から、他の地域と同様に必要な施策を実施する一般対策へ移行しました。ただし、特別対策の終了は、部落差別そのものの解消を意味するものではありません。2016年には、現在もなお部落差別が存在し、情報化の進展に伴って状況の変化が生じているとして、部落差別解消推進法が制定されました。
3.人権上の論点
地域改善対策特別措置法の人権上の論点は、同和問題の解決に向けた特別対策を、どのように継続し、どのように終結へ向かわせるかにあります。同和対策事業特別措置法の下で生活環境の改善などは進みましたが、差別の解消には、物的環境の整備だけでなく、教育、啓発、相談、人権擁護活動が必要でした。
第一の論点は、実質的平等です。歴史的な差別によって生活環境や教育、就労の面で不利益が蓄積していた場合、形式的に同じ扱いをするだけでは格差を是正できません。地域改善対策特別措置法は、同和対策事業の継続を通じて、こうした不利益を改善する制度的枠組みでした。
第二の論点は、公正な運営です。地域改善対策特別措置法では、対象地域と周辺地域との一体性の確保や、公正な運営が意識されました。特別対策は、差別によって生じた不利益を改善するために必要でしたが、その運営が不透明になれば、住民間の不信や「逆差別」といった言説を生み、差別意識の解消を妨げるおそれがあります。
第三の論点は、特別対策終了後の差別です。2002年に特別対策は終了しましたが、結婚差別、就職差別、身元調査、インターネット上の地名暴露や差別書き込みなどは残りました。生活環境の改善が進んでも、出身地や家系を理由とする差別意識が残る場合、別の形で対応が必要になります。
第四の論点は、制度史の伝え方です。同和対策事業や地域改善対策は、部落差別をなくすために実施された行政施策でした。一方で、その対象地域に関する情報は、差別に悪用される危険があります。制度史を学ぶことと、特定の地域や個人を差別的に特定することは明確に区別しなければなりません。
地域改善対策特別措置法を理解することは、同和行政が、同和対策事業特別措置法の段階から、地域改善対策、財政上の特別措置、一般対策、部落差別解消推進法へと移行してきた流れを把握することです。同和問題を過去の行政事業としてだけでなく、現在の部落差別解消の課題につなげて考えるための基礎用語です。