性的マイノリティ理解増進法とは、性的指向とジェンダーアイデンティティの多様性について、国民の理解を増進するための法律を指す言葉です。人権ニュースでは、制度、判例、行政施策、地域の啓発活動などを理解するうえで重要な用語として扱います。
1.性的マイノリティ理解増進法の意味
性的マイノリティ理解増進法は、正式には「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」といいます。報道や自治体資料などでは、「LGBT理解増進法」と呼ばれることもあります。
この法律は、性的指向やジェンダーアイデンティティの多様性に関する理解が十分でないことにより、生きづらさを感じる人がいることを踏まえて制定されました。性的指向とは、恋愛感情または性的感情の対象となる性別についての指向をいいます。ジェンダーアイデンティティとは、自己の属する性別についての認識に関する同一性の有無または程度に係る意識をいいます。
ただし、この法律は、性的マイノリティだけを対象にした特別な権利を定める法律ではありません。性的指向やジェンダーアイデンティティはすべての人に関わるものとして整理されており、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを目的としています。
2.制度・法律との関係
性的マイノリティ理解増進法は、差別行為に対する罰則を設ける法律ではありません。また、新たに個人の権利を直接創設したり、国民一人ひとりに具体的な義務を課したりする法律でもありません。性格としては、国や地方公共団体、事業主、学校の設置者などに対し、理解増進に向けた取組を促す理念法です。
法律は、基本理念、国の役割、地方公共団体の役割、事業主等の役割、学校の設置者の役割、基本計画、学術研究、知識の普及、相談体制の整備などを定めています。国は、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解を増進するための基本計画を定めることとされています。
事業主には、労働者の理解を深めるための情報提供、研修、普及啓発、就業環境に関する相談体制の整備などに努めることが求められます。学校の設置者にも、家庭や地域住民などの協力を得ながら、教育や啓発、教育環境の整備、相談機会の確保などに努めることが求められます。
この法律は、男女雇用機会均等法、労働施策総合推進法、個人情報保護法、学校教育、自治体の男女共同参画施策、パートナーシップ制度、ハラスメント防止、アウティング防止などの実務とも関係します。
3.人権上の論点
性的マイノリティ理解増進法の人権上の論点は、性的指向やジェンダーアイデンティティに関する差別、偏見、無理解が、教育、就労、医療、住まい、家族関係、地域生活に影響する点にあります。本人の意思に反して性的指向や性自認を暴露するアウティング、職場や学校でのからかい、相談しにくい環境、制度上の不利益は、個人の尊厳や安全に関わります。
この法律には、「性的指向又はジェンダーアイデンティティを理由とする不当な差別はあってはならない」とする認識が示されています。一方で、差別を直接禁止する規定や罰則は設けられていません。そのため、差別を受けた人の救済、職場や学校での具体的対応、施設利用をめぐる調整、相談体制の実効性をどのように確保するかが課題になります。
制定過程では、差別禁止法ではなく理解増進法にとどまったこと、条文上の表現、すべての国民が安心して生活できるよう留意する旨の規定などをめぐり、賛否や懸念が示されました。したがって、この法律を理解する際には、性的指向やジェンダーアイデンティティに関する理解を広げる意義と、差別被害への直接的な救済としては限界がある点の両方を押さえる必要があります。